最強など通過点
そういえば、構想段階で武闘大会はやりたかったなと考えてました。
ストロダンの宿屋の食堂には、昨日仲間入りしたばかりの青年リコが、緊張と興奮の入り混じった顔で座っていた。テーブルにはパンとスープ。対面にはノーザ、隣にはニーナとヴィヴィ。女子二人は“心頭滅却”を外す方法を探すかのように、いつもよりノーザの近くに座っている。
軽く肩を回しながらノーザが言う。
「それにしても…スキルチューナーなんて、噂でしか聞いたことなかったよ……」
椅子に座るリコが苦笑しながら頬をかく。
「まあ、僕らの職って少ないからね。必要な素質もあるし、訓練も普通じゃないし……。でも役に立てるなら嬉しいよ」
隣の席でニーナが品のいい微笑みを浮かべる。
「そうですね……スキルチューナーになるには、かなり特殊な集中力と、魔力の繊細な操作が要ると聞きます。とても希少ですよ」
――と、その一言をきっかけに、ヴィヴィがズイッとノーザに近づく。
まるで “心頭滅却解除チャンス” を狙っているかのように。
「ねぇノーザ、もしさ~……その心頭滅却とかいう堅物スキル、外せたりしたらさ……?」
ノーザの眉がピクリ。
「……朝からその話か?」
ニーナもすかさず追撃するように椅子を寄せる。
距離、近い。とても近い。
「リコさんがいれば……ノーザ様の“余計な縛り”も、少し調整できるかもしれませんよ?
ねぇ、どう思います?リコさん?」
無邪気な顔でリコが首を傾げる。
「え?心頭滅却?結構強固な固有スキルっぽいけど……解析してみないと何とも……」
ノーザの顔が険しくなる。
「解析しなくていい!今すぐは絶対にいい!!
このスキルは俺の覚悟で……」
食堂の席での一幕にも関わらず、女子二人は “煩悩の隙を探し続ける者たち” みたいな目でノーザを見つめてくる。
ヴィヴィがニヤニヤ。
「でもノーザ、あーし達のお願いだよ?ちょっとくらい柔らかくなっても――」
「ならない!!」
ノーザの剣幕に、リコが
「ははは…仲良いなぁ君ら……」
と笑う。
ギャグみたいな朝の攻防がひとしきり終わり、ようやく席が落ち着いた。
ここから新たな国での冒険が始まる――そんな雰囲気が漂い始めていた。
朝の光が差し込む宿のロビー。
普段の賑やかな空気とは違い、今日はどこか張り詰めている。
遠くの広場からは既に観客のざわめき、武器の金属音、叫び声が届いていた。
「いよいよ今日だね!」
荷物の紐を結びながらヴィヴィが笑う。その目には炎のような闘志。
対してノーザは鎧の肩紐を締めながら、半分ため息のように呟く。
「ヴィヴィ……本当に出るのか……?」
戸惑いと心配、そして仲間への信頼が入り混じった声音。
しかし今日だけは、ヴィヴィに迷いなど一つもなかった。
ストロダン最大の年中行事――
《ストロダン武闘大会》
腕に覚えのある冒険者、戦士、傭兵、騎士、犯罪者上がりまでが混ざり、
ただ“強い”を競う狂気の祭典。
●大会ルール
1対1のガチンコ勝負
トーナメント制
1パーティにつき出場者は1名
近接武器のみ使用可能
武器は持ち込み自由、戦闘中に落ちた武器を拾うのも奪うのも自由
優勝者には賞金1億ダスト+名誉+称号
ニーナが巻物を読みながら確認する。
「……こうして見ると、本当にむちゃくちゃな大会ですね……命の保証って……」
サンが肩をすくめる。
「ここの名物やからな。勝てば一夜で有名冒険者よ。負けたら……まあ、ええわ」
リーは静かに頷くだけ。
「覚悟の場であるな。力を示し、心を磨く。悪くはない」
ロビーの空気が一段と重くなる。
そして――
ヴィヴィが拳を握りしめ、笑った。
「よし!あーしが出るよ!!」
紙を破るように緊張が解け、空気が一気に熱を帯びる。
表情はいつもより真剣で、どこか誇らしげだった。
「ノーザ、見ててよ。
あーしがアンタのパーティの戦士だって、皆に証明してくる!」
その言葉には揺るぎない自信と――
“勇者パーティの戦士”としての誇りが宿っていた。
ノーザは一瞬黙り、そして笑った。
「……なら、勝ってこい。全力で応援する」
ヴィヴィの闘志に触れて、仲間たちの士気も上がっていく。
ニーナは胸に手を当てて祈るように。
「ヴィヴィさんなら……大丈夫です。勝ってきて下さい」
サンは肩を叩きながら笑う。
「まあまあ、ウチの女戦士ちゃんが負けるわけないわな!」
リコだけが少し距離を置いて、微妙な笑顔で呟く。
「ほぉ……これが“勇者パーティ”ってやつか……」
今回は
ヴィヴィが主役の日。
宿の扉が勢いよく開いた。
大会の熱気が流れ込み、街中の空気が震えている
そしてノーザ一行は、ついに会場へ向かって歩き出した。
ストロダン武闘大会――
会場へ近づくにつれ、空気が変わった。
鉄と汗と血の匂いが混じったような、独特の重い熱気。
遠くからは怒号、歓声、刃のぶつかる音が絶え間なく響く。
会場前の広場には、すでに数百の観客が並び、屋台が立ち並び、
その隙間を強面の男たちが腕試しのように睨み合っていた。
受付まで進むと、慣れた調子の受付嬢が巻物を広げる。
「はい、エントリー確認します。
参加者は……戦士のヴィヴィさんですね?
武器の申告もお願いします」
ヴィヴィが自慢げに剣を掲げ、ドヤっと胸を張る。
受付嬢が微笑む。
「検査完了。登録OKです。
対戦表は後ほど貼り出されますので、しばらくお待ち下さい」
登録を終えた瞬間――
周囲にいた闘士らが一斉にこちらへ視線を向けた。
その目は、狩人が獲物を見定めるような鋭さ。
筋骨隆々の戦士が斧を肩に乗せながらニヤリとする。
「……あの嬢ちゃんが出んのか。面白ぇ」
異国風の剣士が無言で刃を磨いている。
魔法封じの腕輪をつけた囚人上がりの格闘家が鎖を鳴らしながら笑う。
ヴィヴィは震えるどころか――
闘志が倍増していた。
「全員、只者じゃ無さそうだね……!」
拳を握り、ワクワクが抑えきれない様子。
「腕がなるよ!!」
完全に戦士の顔だ。
しかし横に立つノーザは額に汗を浮かべていた。
「……ヴィヴィ、無理だけはするなよ」
ヴィヴィが振り返り、意外そうにまばたきする。
「え?」
ノーザは真剣だった。
「俺たちの目的は“名誉”じゃない。
“魔王を倒すこと”だ。
ここで怪我したら……取り返しがつかない」
その声音には、仲間を心から想う強い気持ちがにじむ。
ヴィヴィは一瞬だけ黙り、それから優しく笑った。
「……ありがと、ノーザ。
大丈夫だよ。あーしは死なないし、負けない。
絶対、勝って帰ってくるよ」
まるで“勝利宣言”のように堂々と。
サンが肩を叩いて笑う。
「兄弟、心配しすぎや。ウチの戦士ちゃんが一番暴れるで」
ニーナも微笑む。
「ヴィヴィさんなら……きっと大丈夫です。信じてますから」
リーは静かに目を閉じる。
「勝利を祈る。己の拳を、迷わず振るわれよ」
リコだけが背後でメモを取りながらニヤリ。
(ふむ……彼女のスキル構成、面白いな……)
そして――
ヴィヴィの第一回戦の行方は、まだ誰も知らない。
ヴィヴィは控え室の真ん中でドンと足を開いた。
「よし!まずは武装だ!!」
サンが首をかしげる。
「ほな、何がいるんやヴィヴィちゃん?」
ヴィヴィはニヤッと笑って手を差し出した。
「サン!斧貸してくれよ!」
「お、おう……?」
サンは自分の愛用のトマホークを差し出した。
ヴィヴィは右手にいつもの片手剣、
左手にサンのトマホークをかざし――
「これで決まりだね!!グラディエータースタイル!!」
武器の重量感を確かめながら軽く振る。
「……うん、悪くないね!!
この武器、切れるし割れるし投げられるし最強じゃん!」
サンは汗をぬぐいながら笑った。
「よぉ似合っとるで……ウチのトマホークも鼻が高いわ……」
斧を担いでテンション最高潮のヴィヴィが、
今度はノーザの方を向いて指をビッと突きつけた。
「あとノーザ!蹴り貸して!!」
「……蹴りを“貸す”って何だよ……」
困惑するノーザの横で、リコがにこにこしながら手を挙げる。
「任せて。こういう時のための僕だからね♪」
「いや、でも大会前にスキル弄るのは……」
「大丈夫大丈夫、信じてよノーザくん。
“強くするための調整”なんだからさ!」
抵抗する隙もなく、リコがノーザの肩に軽く触れた。
「はい、じゃあ行くよ――
チューニング!!」
淡い光が走り、ノーザの身体が一瞬だけ震えた。
同時にヴィヴィの身体にも電気のような刺激が走る。
〈ヴィヴィの蹴技スキルが Lv3 に上昇した!〉
ヴィヴィは目を見開き、拳を握りしめた。
「――っしゃああ!!
身体が軽い!脚が熱い!!
これだよ、これが欲しかったんだ!!」
ノーザは腕を組んでため息。
「おいリコ。俺の蹴技、勝手に渡してないか?」
リコは悪びれもなく微笑む。
「大丈夫、後で戻しとくから ……多分」
(多分って何だよ……)
ノーザは額を押さえながら天を仰いだ。
しかしヴィヴィは完全に戦闘モード突入。
「よし!今日は拳と脚で全部叩き潰してやるよ!!
見てろよノーザぁぁ!!」
斧を担いだまま跳ね回る彼女を見て、控え室がざわざわ。
控え室の空気が一気に変わった。
今度はニーナとリーの前にドスドス歩いていった。
「ニーナ!リー!
バフ頼む!!全部盛りで!!」
ニーナは腕を組み、ぷいっと横を向いた。
「……むぅ。
仕方ありませんね。これはノーザ様の為ですし」
(ノーザ様の名誉のためにヴィヴィさんが負ける訳にはいきません!!)
ニーナが杖を掲げると、魔力が立ち昇る。
ヘラクレスソウル
イージスソウル
ヘルメスソウル
三重の光輪がヴィヴィを包む。
〈ヴィヴィの攻撃力が大幅に上がった〉
〈ヴィヴィの防御力が大幅に上がった〉
〈ヴィヴィの素早さが大幅に上がった〉
ヴィヴィの筋肉が一瞬だけ膨張し、目がギラリと光った。
「っしゃあああ!!
身体が軽いし熱ぃ!!」
続いてリーが静かに前に出る。
「……無理だけは、されぬように」
リーは掌を合わせ、深く息を吸った。
猿田彦跳躍術
天之手力男怪力術
重厚な気流がヴィヴィの足元から吹き上がる。
〈ヴィヴィの跳躍力が上がった〉
〈ヴィヴィの腕力が上がった〉
ヴィヴィは軽く跳ねてみた。
「うお!? 天井にぶつかるとこだった!!
本気でやべぇなこれ!!」
控え室の他選手がざわつく。
「……あの戦士、バフ何層掛けだよ」
「どこの魔王戦に行くつもりだ……?」
「明らかに“大会用の調整”じゃねぇ……」
ノーザは額を押さえた。
(これ……大会じゃなくて討伐戦だよな……?)
バフは完了。武器も準備万端。
しかし――ヴィヴィはまだ何か物足りなさそうに、そわそわとノーザの方へ近づいた。
「最後に……ノーザ!!」
ノーザは剣の手入れを止めて顔を上げる。
「え? なに?」
ヴィヴィは人差し指で自分の額を指し、そっと差し出した。
「おでこで良いから……キス……
これが無きゃ頑張れないよ!」
「!!?」
控え室の空気がピシッと凍りつく。
リーは目をそらし、サンは腹抱えて笑いをこらえ、リコは「おー、こういうの実際に効果あるのか興味あるなぁ」とか呟いている。
ノーザは一瞬だけ固まり、
しかし、真剣にこちらを見ているヴィヴィの顔を見て――
小さく息を吐いた。
「……はぁ……仕方ないな」
そっとヴィヴィの前髪を上げ、額があらわになる。
そして――
控えめに、優しく、短く。
ちゅ。
「…………」
一瞬だけフリーズしたかと思えば、
「よっしゃーーーーー!!!
これで勝てる!!!世界取れる!!!!」
控え室が揺れるほどの雄叫び。
ノーザは真っ赤になって後ずさりした。
「落ち着け!! 大会中だぞ!!」
その横で、ニーナが静かに瞳を細めていた。
「むぅ……今回は譲ります……」
……が、内心は爆発していた。
(やってくれましたね!!!
この卑しい女め!!!
覚えていらっしゃい……!!)
しかし表情は笑顔。
そのギャップがえげつない。
「……こわ。ニーナちゃん、笑顔の圧ヤバいで」
「うーん、この三角関係、調整が難しいなぁ……」
(……南無三)
巨大闘技場。観客席はすでに満員、熱気が渦を巻く。
太鼓と角笛が鳴り響き、その中心で――
実況席の男が立ち上がる。
「――さぁぁぁ!!ストロダン王国・年に一度の大祭典!!第89回・武闘大会、いよいよ開幕でございまぁす!!」
「ウォォォォォ────!!」
男は手に持った拡声魔導器を掲げ、さらに煽る。
「今年も強者揃い!修羅場をくぐった冒険者に加えて、各地の剣豪、拳闘士、軍人、傭兵……そしてワケありそうな挑戦者まで!“本気で殴り合う”準備は出来てますでしょうかァァ!!?」
「出来てるぞォ!!かかってこい!!」
魔導灯が闘技場中央に集光し、砂を照らす。
「ルールはシンプルッ!
一対一ッ!武器持ち込み自由ッ!降参か戦闘不能で決着ッ!最強の名誉と――賞金 1億ダスト を手にするのは誰だァァ!!?」
地鳴りのような歓声。
「それでは諸君!!
拳を握れ!武器を掲げろ!
――歴史に名を刻む戦いの幕開けだァァァ!!」
「武闘大会、開戦ッ!!」
闘技場の砂がざわめく。
魔導スピーカーが重低音のファンファーレを鳴らす。
「さぁぁ第1試合ッ!!いきなり盛り上げてくれますよォ!!まずは――この名を聞いた者も増えてきたはず!!注目のスーパールーキーのパーティから参戦!!」
観客席がざわめき始める。
「Cランクだ?女戦士だ?……関係なぁぁいッ!!」
「おおおお!?」
実況が、胸を張り大きく指を突き上げる。
「修羅場を駆け抜けた“戦場の赤き疾風”!!
怒涛の怪力!烈火の剣士!!
――ヴィヴィアン・スカーレェェット!!」
会場の照明が一気に赤く染まる。
「うおおおおおおおおお!!」
「女戦士だああ!!」
「気合い入ってるぜ!!」
花道の扉が、重々しく開く。
そこへ――
剣を片手に、トマホークをもう片手に構えたヴィヴィが堂々と登場!
「よし……やってやるよ!!」
観客席から大歓声が巻き起こる。
第1試合、開始!
対戦相手は筋骨隆々、いかにも武闘派という見た目で仁王立ちしていた。
相手はニヤつきながら顎をしゃくる。
「へっ!女に負けるかよ!!
今から泣いて謝っても遅ぇからなぁ!!」
ヴィヴィは逆に落ち着いていた。
深呼吸し、一度だけノーザの方を見る。
「……ノーザ。借りるよ!」
ノーザは頷く
試合開始の合図が鳴る
同時に相手が咆哮と共に突っ込んで来た
「うおおおおお!! 一撃で沈めてやる!!」
「来るぞ来るぞ!!」
しかし――
ヴィヴィの姿は、風のように一歩横へ滑った。
「……は?」
蹴技スキル――戦槍脚!!
鋭い前蹴りが相手の鳩尾へ突き刺さる!!
「ぐぼぉっ!!」
巨体がくの字に折れたところへ――
「終いだよ!!」
相手の武器が弾き飛び、本人も吹っ飛んで地面へ転がる。
砂煙だけが残り、観客は一瞬静まり返った。
そして――
「な、なんとォ!!
開始数秒!!一撃必殺の圧勝!!
ヴィヴィアン・スカーレット!!
勝利ィィィ!!」
「うおおおおおおお!!!」
「強すぎる!!」
「マジかよCランク!?」
ヴィヴィは剣を肩に担ぎ、ニッと笑って叫ぶ。
「次もぶっ倒してやるよ!!」
「続いて第2回戦!!
対するは――長柄武器の名手、“槍鬼”の異名を持つ男!!」
観客がざわつく。
長槍を軽々と振り回し、その鋭い間合いは素人を寄せつけない。
槍使いが鼻で笑う。
「女戦士よ……この距離に入った時点で終わりだ!」
ヴィヴィはトマホークを軽く持ち直す。
その余裕に観客が息を呑む。
槍使いが一気に距離を詰め、槍先が閃く。
その刺突は速い――
だが。
「遅いよ!」
ヴィヴィは槍の軌道から半歩外にずれ、
左手のトマホークを振り下ろす。
金属音が響き、槍の柄がへし折れた。
「なっ……!?」
次の瞬間、ヴィヴィの右拳がうなりを上げる。
「ブレイズナックル!!」
轟ッ!!
火をまとった拳が槍使いの腹にめり込み、その巨体を後方へ吹き飛ばした。
砂煙の中、審判が慌てて駆け寄る。
「勝負ありッ!!勝者、ヴィヴィアン・スカーレット!!」
「強すぎる!!」
「槍鬼が秒殺だと!?」
「なんだあの女……!」
ヴィヴィは汗ひとつかかず、剣を肩に担いだまま歩き去る。
「次もまとめてかかって来な!」
その後も、三回戦も余裕の勝利を見せたヴィヴィ
今年は今回で最後になります。次回は年明け何日か後にへ更新します。よいお年を!




