我ら、新たなステージへ
転生後の息子の彼女の配信を夢で見る
──夜明け前。
補給拠点完成の祝宴の熱気がようやく収まり、寝息が静かに聞こえる宿の一室。
ノーザは深い眠りの中で、
“自分の記憶には存在しない世界”を見ていた。
眩しいライトと、妙な箱を見つめる少女がいた。
鮮烈な赤髪、どことなく勝ち気で愛嬌のある顔立ち──
だが服装も部屋も、ノーザにはまったく理解できない。
「ahoy!カレンで~す!」
明るい声が部屋に響く。
少女は笑いながら、箱の向こうの誰かと喋っているらしい。
(……誰だ、この子)
ノーザは知らない名前に首を傾げる。
「今日はね〜、みんなちょっと聞いてほしい事があってさ〜」
少女は、妙なガラス板のようなものを操作しながら続けた。
「レンジってさ、すんごいマザコンでね」
ノーザは戸惑いながらも夢の中でその会話を聞くしかない。
カレンは笑いながら、手振りで胸の辺りを指し──
「でね?なんでかな?って思ってたらさ、
レンジのお母さんってマジで“ぺぇ”がデカ過ぎて!あっ、原因これだ!!ってやっと理解したの!!」
(ぺぇ?)
聞き慣れない単語。
そもそも会話のどこがどう繋がっているのか、理解が追いつかない。
だが、カレンは嬉しそうに笑っていた。
「まあ、そんなレンジも可愛いんだけどね♡」
(……可愛い? レンジって誰なんだ?)
背景には光があふれ、ガラスでできたような不思議な機器。
ノーザには到底分からない文明の光景。
そんな未来の夢を見て、
ノーザはうっすら目を開けた。
その瞬間──
ズシッ!!!!
顔に押し寄せる驚異の重量。
息が詰まる。
「ふごっ!?!?」
視界いっぱいに……
やたら柔らかい“何か”。
そして──
「ノーザ様♡ おはようございます♡」シュコシュコ
甘い声が頭の上から降ってきた。
(……ニーナ……!!押し付けんな……!!)
必死に手で押し返すが、
柔らかいのにやたら重い2つの質量は動じない。
ニーナは幸せそうに微笑んだまま、
ノーザに身を寄せる
「昨日のノーザ様…♡皆さんとあんなに燥いで……♡あぁ…愛おしすぎます…♡」シュ…シュ…♡
(だからってこれはなんだよ……!?)
ノーザは涙目で呻いた。
「重……っ……!! どけニーナ……!!」ヂュウ…チュウ
ニーナは全然どかない。
むしろ──
寄せて、乗せて、押し付けてきた。
「ふふ……♡ノーザ様… ♡赤ちゃんみたい……♡」シュッ シュッ……シュコシュコシュコシュコ
(……お前が吸わせてんだろ……!!)ドックン
未来の夢の衝撃より、
現実のJカップの圧力に瀕死のノーザだった。
ノーザが必死にもがいた結果──
「はいニーナ、反省。」
次の瞬間、
ニーナは 布団ぐるぐる巻き にされた状態で部屋の隅に置かれていた。
「ノーザ様ぁぁぁぁ……!!どうしてですかぁぁぁ!!
私はただ……愛情表現を……!!」
ノーザは頭を押さえてため息。
「……朝から押し付けんなって言ってるだろ……。
圧死するところだ……」
布団の中でニーナがじたばた暴れる。
「ノーザ様の朴念仁っ……!!
もっと!!こう!!私の気持ちを!!分かって下さいよぉ!!」
(……いや分かっても受け止めきれないんだよ……物理的に)
そこへ扉がノックもなく開く。
「おはよーノーザ♡……って、また朝からそれやってんの?」
ヴィヴィがニヤァ〜っと笑いながら入ってきた。
「やれやれだねぇニーナ、恥ずかしくないのかい?」
布団の中からニーナの悲鳴。
「黙って!!これは尊い愛情の儀式なのです!!
ヴィヴィさんには一生分からないんですよ!!」
ヴィヴィは大爆笑。
「愛情の儀式ぃ?
ノーザの顔に“押し付け事故”起こしてただけじゃないか!!ぷっ……あはははは!!」
ノーザは遠い目でつぶやいた。
「……もう、朝の恒例行事になってるよな……これ。」
ヴィヴィが肩をすくめる。
「まあいいや!朝飯行こうよ!ノーザ!」
「ノーザ様ぁぁ!!
私はただ、愛が深すぎるだけなんですぅぅ!!」
こうして──
また今日も、ノーザ一行の“日常の朝”は騒がしく始まった。
完成したばかりの東方中継拠点。
昨日の祝宴の雰囲気とは打って変わって少し寂し気な空気が漂っていた。
今日は──ノーザ一行が旅立つ日だった。
拠点の中央広場には、ギルド職員、工業ギルド、冒険者、商人、農民、兵士……
この一ヶ月間、共に汗を流した三百名以上の仲間たちが集まっていた。
「ノーザさん達……今日で行ってしまうんですね……」
前線事務局の女性職員が、名残惜しそうに目元を押さえる。
「あなた達がいなければ、この拠点は出来ませんでした。
……本当に、本当にありがとうございました……!」
その横で、腕を組んで立つのは建設総責任者ロウガン。
あの豪快で無骨な男が、珍しく優しい声を出した。
「ノーザ……この国に所属する気はないか?
お前みたいな若造は滅多にいない。
うちに来てくれるなら、資格も階級も全部用意するぞ」
誘いは本気だった。
周囲からも「ノーザさん残って!」「英雄だよ!」という声が上がる。
だがノーザは、困ったように、けれど迷いなく首を横に振った。
「お気持ちはありがたいです。
……でも、ごめんなさい」
ヴィヴィがノーザの肩に腕を回し、ニッと笑う。
「あーし達は魔王を倒さなきゃならないんでね!」
その後ろでニーナが深く、深く一礼する。
「この国で過ごした一ヶ月……
ギルドの皆様と働き、汗を流し、共にご飯を食べたこの日々……
私、一生忘れません。
本当に……ありがとうございました」
その言葉に、数名の職員が涙ぐんだ。
「ノーザさんーー!!」 「気を付けてなーー!!」 「魔王ぶっ倒してこい!!」 「いつでも帰ってきていいからな!!」
三百人の大歓声。
ラヴズのいななきが響き渡り、ノーザ一行が前へ踏み出す。
サンが帽子を取って振り返る。
「みんな元気でなぁ!!
兄弟らと一緒に、魔王の首取ってきたるでぇ!!」
リーは静かに頭を下げた。
「皆様に、仏の御加護があらんことを……」
ヴィヴィは拳を突き上げる。
「ありがとよ!!また逢おうぜ!!」
そして──
ノーザは振り返り、胸の奥から込み上げるものを抑えきれずに叫んだ。
「本当に……ありがとう!!
必ず……魔王を倒してみせる!!」
歓声が、谷を揺らすほどに響いた。
こうしてノーザ達は、
かつてないほど多くの仲間に見送られながら次の地へと旅立った。
ノーザ一行が東へと旅立った翌日から、
この中継拠点はまるで生命を得たかのように動き始めた。
山脈と渓谷に阻まれていた長く険しい補給線は、
中継拠点での物資交換により
人馬の負担は大幅に軽減された。
前線への物資輸送が半日早くなったことで、
兵士たちの備蓄には常に余裕が生まれ、
遠征軍も大胆な作戦を取れるようになった。
ターミナルには潤沢な物資が並び、
さらに商人たちが次々と露店を開き、
蒸した芋、獣の干し肉、薬草、穀物、布地、木材……
ターミナル前の市場は朝から晩まで人で溢れた。
馬車が何十台と並び、
遠方の商業都市から来た隊商も拍車を鳴らしながら到着する。
ギルドと冒険者、皆で作ったこの拠点は
ただの建物ではなく──
この地方が再び前へ進むための希望そのものだった。
中継拠点を後にし、ノーザ達は再び東へと歩みを進めていた。
草原の色も、風の匂いも、少しずつ変わってくる。
どこか乾き、どこか冷えている。
周囲の森は細り、代わりに岩肌がむき出しの地帯が増えた。
街道を行き交う旅人もまばらになり、
荷馬車の車輪跡も、いつしか深くえぐれたものばかりになっていく。
歩きながらノーザが遠くの地平線を見つめた。
「……いよいよ、人類領土も“後半”に入るな。」
その声に、隣で揺れるニーナのローブがふわりと揺れた。
「ここから先は、防衛線そのものが薄くなります。
村も町も距離が広がり……魔族の影が濃くなる地域です。本当に、注意しましょう。」
「……よし。気を引き締めていこう。」
こうして、ノーザ一行の旅は
“前半の平和圏”から
“後半の戦場圏”へと足を踏み入れるのだった。
更に歩みを進める一行は異様な気配が、乾いた風に混じって流れた。
ノーザが足を止める。
六道の柄に触れた指先が、微かな殺気を拾っていた。
「……来る。」
次の瞬間、土埃の向こうの影が“立ち上がった”。
それは、今まで相対してきたオークやゴブリンとは明らかに違う。
野性味でも野蛮さでもなく──
静かで整然とした“殺意の形”。
黒いローブに身を包み、
胸には魔王軍の徽章。
手には鎌、槍、短刀。
何より、動きが異様に静かだ。
サンが低く呟く。
「……兄弟。あれは雑魚ちゃうで。
“暗殺隊”や。魔王軍の中でも上積みの殺し屋部隊や。」
リーも汗を落としながら構える。
「この気配……ただの魔物ではない。
規律がある……“訓練された兵”のそれ。」
ヴィヴィが剣を引き抜き、
眉を険しくする。
「なんだよ、あいつら……。
魔物って言うより……戦士の目してるじゃないか。」
一歩前に出たニーナが、
めずらしく表情を引き締める。
「ノーザ様。間違いありません。
この者達……“私達を狙って送り込まれた部隊”です。」
ノーザが六道の鞘を握りしめる。
(……やっぱり、あの拠点を作った事で……
俺達も“敵軍から脅威と見られた”ってことか。)
暗殺隊が、こちらの実力を見極めるように散開した。
その動きは、まるで風の影が裂けたような静かさだった。
一人が、無言で鎌を構える──
まるで儀式の始まりのように。
サンが唾を飲み込んだ。
「ハッ……
ついに目ぇ付けられたわけや。
兄弟、こっから先はもう“戦争”や。」
ノーザは一歩踏み出し、
六道を静かに押し出した。
「……そのつもりだ。
ここから先は、ただの魔物じゃない。
“敵軍”と戦う……そういう場所だ。」
カチリ、と刀がわずかに抜けた音。
それを合図に、暗殺隊が一斉に地を蹴った。
だが──迎え撃つノーザ一行の士気は、それを上回った。
仮面をかぶった暗殺兵が一斉に迫った瞬間、
誰よりも先に笑い声が響く。
「ハッハァ!!
ワイらもついに名前が売れてきたみたいやないかい!!」
サンが肩に担いだのは、
まだ真新しい “方天戟” 。
刃が月のように湾曲し、
夜の闇と同じ色を帯びていた。
「ほな──初仕事といこか!!」
地を裂く一撃。
月牙が振り下ろされ、暗殺兵の身体が、
縦に真っ二つに裂けた。
サンが戟をくるりと回し、ニヤリと笑う。
「方天戟……
こいつぁ、えっげつない切れ味やでぇ!!」
雷鳴のような音をまとって駆け出す女戦士。
「こちとら未来の勇者一行様だよ!!
そのうち世界に名を轟かせてやるさ!!」
左腕に装着した
“召雷の腕輪” が輝く。
次の瞬間──
拳に雷が走り、空気が焼けた。
彼女が放ったのは、雷の拳
ブリッツパンチ!!
直撃した暗殺兵の身体が弾かれ、
後方の岩壁に──
ドンッ!! と叩きつけられた。
「ほらよ!雷属性ってこう使うんだよッ!!」
ヴィヴィの怪力と雷が合わさり、
雷の女戦士が誕生していた。
そしてノーザ。
六道、初の“型”を繰り出す。
迫り来る殺気の奔流。
ノーザがその中心に立つ。
「……紫織さん。恵元さん。
──この力で、必ず……。」
黒刀六道の鞘が鳴った。
抜刀。
世界の空気が、一瞬止まる。
六道斬り 三ノ型
十一面修羅輪連
ノーザの身体が、一瞬にして“分裂”したかのように見えた。
十一方向。
十一の殺意。
十一の軌跡。
十一方向への乱れ斬り
まるで十一の顔を持ち、その十一の見つめる先の敵を一瞬で捉えるように、嵐の如く戦い続ける修羅のように
暗殺隊が気づいた時にはもう遅い。
ノーザが刀を納めた瞬間、
十一方向から血飛沫が同時に舞った。
倒れる音すら遅れて響いた。
ノーザの視線は静かだった。
「……これが、日ノ本が託してくれた力だ。」
風だけが、その場に残った。
サンの戟が血を振るい、
ヴィヴィの腕輪がバチバチと静かに電撃が迸り、
六道は黒く静かに光る
遠く、ニーナが息を飲む声だけが響いた。
「ノーザ様……
これが六道……」
ノーザは刀をそっと鞘に戻した。
「……来るなら来い。
俺達はもう“冒険者”じゃなくて──
世界を変える者なんだから。」
戦いは終わった。
だが物語は、ここから加速していく……。
舞い散る魔族兵の残骸。
六道の軌跡がまだ空気を震わせる中──
最後尾に控えていた僧兵と魔法使いが、息一つ乱さず前へ歩く。
静かに手を合わせた僧兵が呟く。
「ノーザ殿達に掛かれば……
この程度、他愛も無い。」
リーの視線はどこまでも冷静だ。
乱れた呼吸の一つもない。
敵を見送る僧の表情。
その隣で、魔法使いが冷ややかに笑う。
「所詮は……少数部隊でしたね。
“暗殺隊” と名乗るなら、せめてもう少し隠密性を磨いてほしいです。」
どこか余裕すら感じさせる声音。
死体を踏み越えながら、ひとふり髪を払う。
その落ち着きは、サンとヴィヴィの豪快さとも、ノーザの静かな殺気とも違う、
自信と品のある魔法使いのそれ。
ノーザ達の圧倒的勝利に、
二人の余裕が加わって──
「我らが未来の勇者パーティ」
とでも言いたげな空気が漂った。
六道の技ですが6つ考えました。随時披露します
次回は2、3日空きます




