夏井さんとしれー⑤
「よし! 夏井君、発進だ!」
「はいっ!」
薄青の光に包まれた時、次に目を開くと、そこはアニメで見た通りのコックピットが広がっていた。
(本当に、夢の中みたい……)
いや、夢じゃない。現実だ。
シュミレーションした通りの動きを再現すると、ガンマルムは発進した。
「夏井紅、行きまーす!」
風が紅を包む。コックピット越しだけれど、確かに感じた。
冬の薄く色づいた青空、そして一面の地平。
爽快感のある光景。一生紅は忘れることはないだろう。
「夏井君、どうだ? 異常は無いか?」
「は、はいっ!」
見とれていた頭を戦闘モードに戻す。
これから敵兵役の2人を撃墜する。眩しい光を放つだけのビームを使い、一撃を当てたら撃墜判定。2人撃墜すれば紅達の勝ち。逆にビームを当てられればこちらの負け。
「いいぞ、そのまま進んでくれ! マリーゼ君、念のための索敵を続けてくれ!」
「はい。異変はありません。気をつけて下さいね」
と。
「あれ、一機来てますね。噂をすれば影ですねー」
『マジっすか!?』
柞間の悲鳴に近い声が聞こえる。
「司令、俺達でなんとかしま「有人機の方が性能は高い! 夏井君、加速してくれ!」
「はいっ!」
「……」
行ってしまった。
「あ、あのー……」
「柞間さん大丈夫ですよ、こちらは5人もいるんですから」
「……そうだと良いんすけどねー……」
◆◇◆
「敵は無人機です。従来と同じ機種。恐らく偵察のためと思われます」
(あれが……)
何度もモニター越しに見ている偵察機。
手のひらに汗が滲む。これは安全な司令部から見ているのではない。ほんの数十メートル先にいるのだ。偵察機とはいえ武装している。攻撃されれば、紅はもちろん司令もただでは済まない。
その事実が、緊張を生む。
「敵兵見ゆ! 銃を取れ、夏井君!」
「はい、しれー……いっ!?」
言われた通り動こうとして、思い切り何かに引っ掛かった。
「あ、あれ? 絡まった!?」
「夏井君、シュミレーション通りに安全装置を」
「きゃあっ!?」
無理矢理に引っ張った途端、思い切りバランスを崩した。そのまま顔面から思い切り転ぶ。大人げない、膝付きの転倒である。
「「「「な、夏井さんー!?」」」」
「だ、大丈夫……へぶっ」
起き上がろうとして、足がまだうまく動けないのかまた転んだ。
「落ち着いてくれ、単に手足が太くなっただけだ!」
横倒しになった棺の中で司令が叫ぶ。
その間にも偵察機:スペキュラティは近づいてくる。何とか体勢を立て直すことはできた。
「夏井さん! 今すぐ敵から離れて!」
メカ・エリナとアマテル量産機が現れる。
「大丈夫! できます! 敵さん、覚悟ー!」
「いや早まんなー!?」
湯浅口の声も聞かず、スペキュラティに突撃する。ビームを煙幕代わりに、ビームソードで一刀両断! そんなケースをアニメで見た!
だが。
岩を砕くはずのビームは、遙か彼方に飛んでいった。
「ええーっ!?」
敵は紅に、驚愕している隙を与えない。手にしたナイフで襲いかかってくる。
「きゃあっ!?」
ナイフにひるみ、ビームソードが弾かれた。再度振り下ろされるナイフが、スローモーションで見える。叫んでいるはずの恩人の声が、遠くに聞こえる。なんとか、何か、武器になるもの、尖ったものを……!
敵兵の瞳に、ガンマルムが写る。兜に似た、金色の意匠が鈍く輝く。
咄嗟に。
「V字を!?」
「もいだ!?」
「ひぇぇえーーいっ!」
無我夢中で振り回すと、堅い感触があった。V字が手から離れて飛んでいく。思わず飛来物を目で追った。
「ぐへっ!?」
(きゃー町田さーん!? ごめんなさーい!)
町田に当たり。
メカエリのツインテールを砕き。
似飛望へとブーメランの如く弧を描いていく。
最終的には敵の首に突き刺さった。
沈黙が、周囲に満ちた。
敵はナイフを振りかぶった姿勢のまま倒れ、動かなくなった。
「……」
これはつまり。
「……勝利、です、よね?」
誰も何も言わなかった。
V字を弾いたのは、全員が「夏井さん絶対何かやらかす」と思って装甲を分厚くしていたからとか言わない。
マリーゼですら、凍り付いた笑顔を浮かべていた。




