夏井さんとしれー④
(これが、パイロットスーツ……)
何度も見ていたが、袖を通すのは初めてだ。黒と白のスーツ。全体的に黒く、白は要所要所に入っている。着心地は水着そのもの。体型はちょっと不安だったけれど、どうにか人前には出せるスタイルだった。安心。
司令も似たものを着ていた。紺色で、どことなく和服を思わせる色合い。そういえば司令の好きなものは和食だった。そんなところもパイロットスーツに反映されているのだろう。
(あれ、あたしにアンケート来たっけ?)
まぁいっか。
それよりも、今はロボに乗ることを考えなければ。。
(しれーに恩を返すチャンス! 頑張らなくっちゃ!)
紅は一人、拳を握った。
◆◇◆
やる気満々の夏井と司令に対して、周囲の思惑は不安に満ちていた。
本来ならば、夏井はオペレーターではなくパイロットとして抜擢されるべきだった。司令の秘書という立場であるが、パイロットがいない以上抜擢されてもおかしくない。素質のないマリーゼと、年ということで食堂のおばちゃんが除外されている。激しい動きをする以上、できる限り体力のある女性が優先される。紅が乗れば、野田が彼女を失くすまでパイロットを探す必要はない。
ただ一つ、最大の問題は。
ドジすぎる。
就任から1日でドジっぷりは話題になった。砂糖と塩を間違え、見るモニターを間違える、司令部のちょっとした段差につまづいて転びコーヒーをぶちまける。
(どう見ても出撃直後に転ぶタイプだ……)
誰が言わなくともそう思っていた。
秘書だから、メガネだからとなんのかんの理由をつけて模擬戦を伸ばしていたが、もうごまかしは効かないようだ。
「司令。夏井さんはこれが初めてなんで不安でしょ。敵兵役に2人と、補助役2人もつけますよ」
「えっ、あたし1人で行けますよ?」
「柞間君の言うとおりだ。模擬戦とはいえ、実戦がそのまま始まる可能性もなくはない。頼む」
とか。
「夏井さん、メガネじゃ転んだとき危ないですよ。このゴーグル型メガネを使って下さい」
「転ばないですよ-。でもありがとうございます、使わせてもらいます!」
とか。
各々不安要素をできる限り減らしていく。ドジだからだけではない。夏井には手を焼かされていたが、同時に元気も貰っていたことは確かだ。
彼女が来てから、アマテルが明るくなった。だから、出来る限りのことはしたかった。
そして、巨神が出来上がる。
司令の搭乗に相応しい威容。堂々たるガンマルムが出来上がっていた。




