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エピローグ:再会と希望とパフェ

「君に会わせたい人が居る。これで最後、のはずだ。鶴崎君が渋るので手間取ったが……」


「亀場さんはノリノリだったんですがね?」


 ステーキハウスに現れたのは、丸眼鏡の女性だった。忘れようもない、あの「真実」を告げた時の瞳。その瞳の奥は、もう悩みに苦しんでなどいない。


「金子さん!?」


 唯架は驚きの声を上げる。まさか彼女とも出会えるなんて思っていなかった。



 これはアマテル上層部しか知らない事だが、赤ん坊を火ノ原夫妻の元に届けた後、金子は真っ先にアマテルへと頼った。ファーレンからの裏切り者として、身柄を確保して欲しいと。


 金子は知っていることを話したが、あの赤ん坊のことは伏せた。話せば身柄を保護してくれるかもしれないが、ファーレンとは逆に、「正義の味方」として育てる可能性は高かった。


 それでは金子と唯架の思うところではない。ただ普通の男の子として生きて欲しい、それが願いなのだから。……15年後、科学技術が発達して結局棺に乗る羽目になったが、それでも、15年は普通の少年として生きられた。


 自白剤を使われなくてよかった、と継は思う。そもそも効かないよう調整されていたが、正義よりもあの子の未来が気がかりだった。


 今の金子はアマテルの監視を受けながら、地味な雑用をこなしている。遺跡のある新宮町ではなく別の部署へ飛ばされた、だから火動とは出会わない。唯架とも出会わない。


 ……そのはずだったが。



「アマテルの遠くの支部に保護されてたんだ。支部の偉い人の許可がなかなか出なくて。遅くなっちゃったけど……」


「ううん、いいの、無事なら……!」


 継は、整備斑に囲まれる少年を見る。やーい告白したぜー!と囃されている、ごくふつうの彼を。


「……あの子が、火動君だね」


「ええ。とっても立派に育ったのよ」


 唯架はウィンクなどしてみせる。


「それじゃ、お茶……はもうこりごりだから、コーヒーに……」


 しようとした時。


「ハァーイ火ノ原サン、金子サン! ハローこんにちわやっと会えたわね!」


「「!?」」


 めっちゃ怪しい仮面の女が現れた。鮮やかな金髪の上には、仮面舞踏会のようなものですらない怪しい木彫りの仮面。ディールもファティアすらも凌駕する不審のかたまり。


 思わず継を庇おうとして、互いに庇い合って変な体勢になった。


 陽給が謎の女を指し、恥ずかしそうに口を開く。


「ええと、これは私のママです」


「そうよ! 陽給ちゃんのママ、陽御崎真昼でぇす♪」


「ひ、陽給ちゃんのお母さん……」


 道理で凄まじい高テンションの訳だ。


「金子サンと火ノ原サンは事情があってずっと会えてなかったのよね! ささ、コーヒーにしてカフェイン入れて、15年くらいの時を取り戻すわよ~!」


「はっはっは! 陽給君に母上を連れてきて欲しいと頼んで良かったな! あの明るさ、無事に潤滑剤をしてくれている!」


 劇薬を混ぜているのでは? というツッコミを入れる者は誰も居なかった。


 ◆


 そして始まるは、ステーキパーティー!

 番匠達がステーキを焼き、自分たちはそれを囲んで食事にする。据え膳は少し申し訳なさも感じたが、「いいのだいいのだ! 君たちは世界を救ったのだから、これくらいはしないとな!」と追い返されてしまった。


 ちなみに陽給母はよく馴染んでいた。勤続10年目と言われても信じそうなくらい。


 隣に座った火動の母が、悪戯っぽく聞いてくる。


「陽給ちゃんは彼女なの?」


 火動は噴き出した。


「ん、んな訳あるかっ! あんな騒がしい奴……」


 口では否定したものの。


 同棲したり。下着を見たり。


 嬉しそうにパフェを頬張った笑顔を、しっかり覚えている仲なのに。


「と、とにかく、彼女じゃねぇよ……今は」


「そう。良い友達なのね!」


 ニンマリ微笑む表情が地味に恨めしく、火動はそっぽを向いた。しかし母はめげずに話しかけてくる。


「ずっと聞けてなかったわよね。学校はどう? 楽しい?」


「……別に、中の中ぐらい」


 ◆


 端的な返事にも、もう落ち込んだりしない。


(これが、この子の素、なのね)


 ただ、話せるのが嬉しいのだ。


 唯架は短く「そう」と答える。自分も上手い答えなんて、陽給ちゃんや真昼さんのようにサラサラと思いつけない。お互い、これでいいのだ。もう一度微笑むと、息子は適当に小さく頷いた。


 ◆


 火動も、そんな母を見て、穏やかに思っていた。


 そんな折、柞磨の明るい声が響いた。なぜか背筋に悪寒が走る。


「火動くーん。パフェ持ってきたぜ! 食ってくれよ!」


「待て、そんなの頼んで、」


 確かに甘い物は好きだが、このタイミングのサプライズは猛烈に嫌な予感がした。


 パフェには、ハートマークのクッキーが突き刺さっていた。しかもピンク色にコーティングまでされている。

「わーかわいむぐぅ!?」


 陽給を抑えながら即食べる。


 柞磨め!


「へっへー、これくらいはしてもいいだろ! 整備斑からの粋なサプライズだ!」


「粋かよ!?」


「柞磨、からかうのはほどほどにしておいてね……」


「いいなー、私にもパフェぷりーず!」


 陽給はいつもの調子だ。じみーにからかわれ、賢がたしなめていることなど気付きもしていない。火動は小さく溜息を吐き、もったいないのでパフェ本体にスプーンを入れた。


 甘く、この場の雰囲気によく合っていた。

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