エピローグ:さよなら、レッドグロウ
本部に帰還する。いつの間に作ったのか、整備班たちは『おかえりレッドグロウ!』の横断幕を掲げていた。
「やほーい! みんな、帰ってきたよー! 火動ママも一緒に!!!」
陽給が手を振る。いつもの高いテンションで、がっしょんがっしょんジャンプしている。火動は棺の平衡を保つ空想で手一杯だった。
「よし。それでは、空想を解除しよう。そのままステーキが食べられないからな!」
司令の軽口とも言える言葉に、ふと我に返る。
「……そっか。これで、レッドグロウともお別れだね」
「……あぁ」
この棺内部の光景も、これで見納め。最初は思い切り巻き込まれるまま乗った。そのまま怒涛のように任務は過ぎた。全ては1ヶ月も経っていない出来事。
ひとりのクローンという事実から始まった、奇妙な縁。
名残惜しいといえば惜しい。だが、棺からは、生きている者は出なければならないのだ。
「父」を思う。記憶をほんの少し垣間見ただけ、ほんの少し声を聞いただけの存在。破壊者と呼ばれる存在。けれど。「父」と呼んでも、いいだろう。火動ひとりだけは。
(……じゃあな、父さん)
空想を解除する。
あばよ、という声なんて聞こえなかった。
ただいつもと違って、何かが完全に終わりを告げた……そんな感覚があった。
◆
「お疲れ様、レッドグロウ」
コックピットが、青い粒子となって消えて行く。
「この前は自爆させちゃって、ごめんね」
陽給はハンドルを撫でた。ロケットパンチやら爆弾やら、色んなことをこのハンドルでしてきた。
「でも、私、あなたに乗れて楽しかった。痛いことも怖いこともあったけど、それでも」
コックピット内を見る。覚えておこう。心に焼き付けておこう。
「だから、あなたのこと、ずっと忘れない」
ぴこ、とモニターが輝いた気がした。青い光は、少なくとも怒ってない。むしろ、寒色なのに温かかった。
「……ありがと、またね。レッドグロウ」
◆
棺から降りた。母を先に、火動は後に。ありあわせで出来た棺は、人間が出て行った途端、無数の灰となって消えていった。
「火動―! カッコよかったよ!」
いつものように、陽給が駆け寄ってくる。しかし、額からは痛々しく赤い傷ができていた。可愛らしい系の顔を分断するように、血の線が走っている。
それで尚、笑顔を。
「おつかれちゃん! さ、アイスクリーム食べに……」
何かが心の奥から沸き上がる。それが何かも分からないまま、思わず陽給を抱き締めていた。
「ひ、ひひひひひ火動!? みんな見てるよ!?」
陽給の声が裏返るが、それでも。抱き締めなければならないほどの、何か。
「……ありがとう、陽給」
その言葉しか、言えなかったけれど。
「ど、どう、いたしまして……」
彼女の顔を見る。流血が霞むほど真っ赤になって、けれど青い瞳がこちらを見ている。その中には、見たことがないほど優しい顔をした自分がいた。
自分がいた。
自分が。
「!??!?!?」
ようやく「自分が何をしているか」自覚が出た。慌てて陽給から腕を離す。
「そ、その、感謝のあれがそれであの、こうなったっていうか、だな……?」
「そ、そうだね! ど、どうもサンキューウェルカム! 感謝のキモチ伝わったよぉぉぉ!!!!」
ぎゅっと、手のひらが握られる。熱いほど熱を持った、陽給の手。
「そ、それじゃ先にステーキハウス行こ! アイス溶けちゃうよ!」
「あ、あぁ!」
その場にいる全員は、ただただニーマニマしていた。マリーゼだけが「その前に医務室ですよー」と立ち塞がって連れていく。
「若いっていいなぁ! 皆もそう思うだろう!」
「羨ましいなんて微塵も思ってないからな! あとで激辛混ぜてやろうなんて思ってないからな!」
「涙拭けよ、町田」
「や、やっと緊張が解けたと思ったら突然告白しちゃったわ……は、母親としてどうすればいいの!?」
「祝福しちゃうしかないですよ唯架さん!」
「結婚するんですか?」
「10年後はしちゃうのかもなチクショー!!!」




