未来へと続く夢:「栄光」の未来①
遺跡の中は、冷たい石の通路だった。あちこちに発掘用だろう、灯りがある。本で見た発掘現場そのままだ。一つ違う事は、通路が全て人工的な石造りだということだ。ファンタジーをほとんど知らない火動ですら、RPG的な空間だと思ってしまう。
「ふぇー、司令部の地下がこんなロマン溢れる空間だったなんて……」
「陽給、寄り道するなよ。2時間しかないんだからな」
「分かってるって! ちゃちゃっと見つけちゃおう!」
賢は迷わず進んでいく。
「少しだけ、アル・ソトファ神話について話そう。かつてこの世は、一本の塔で支えられていた……そんな言葉から始まる神話だ」
聞いた事がある。昔の絵本で、児童文学で。
「でも、今の神話とは全く違う」
そう。伝説でしか聞いた事がない。あくまで「空想」の産物だった。
「でも、僕は本当にあったんだって信じてるよ。だってここが、その塔のあった場所だからね」
「えー!? まじスピリチュアル空間だったんだ、この遺跡! カミサマに勝利祈願とかできる!?」
「ど、どうかな……」
陽給に苦笑を返し、賢は進んだ。
「何かあるなら、この場所だ。ここで、最初の棺が発見されたんだ」
6畳ほどの空間だった。水を通していたようで、両側に枯れた溝がある。他と同じ石造りの部屋だ。
意味ありげな絵画が描かれている訳でも、怪しい紋様がある訳でも無い。賢に言われなければ単なる開けた場所だと見落としていただろう、地味な部屋だ。
中央には何かを強引に剥がした跡。
(あそこに、棺があったのか)
微かに見覚えがある…… 誰か。人影が、2つ。アノニ。あともう一人、黒髪の女性。石棺を中心に、何かを話している。これはヴァースの記憶だから、彼もそこにいたのだろう。何を話していたかは分からない。朧気に、『兵器』『再生』という言葉が聞き取れた。
棺の中で何回か経験した、記憶再生と似ている。これも、ヴァースのクローン故の感覚だろう。
少し複雑だが、だからといって今の状況に必要な物を思い出すこともなかった。やはり微妙に使えない能力である。
だが、「棺」というのならば、誰の棺だったのだろう。神の塔というならば「神」のものか。善の神か、はたまた悪神か。
「で。アノニのねーちゃんは、どこで何をしろって言ってたっけな」
ツルハシを担いだ柞磨が呟く。火動は思案から現実に戻った。そうだ、記憶にふけっている場合ではない。
アノニは司令室にいる。さすがに、この場所に来ると何をしでかすか分からないということだ。
「この奥に、もう一つの儀式場、神の納められた場所がある……そう言っていた。でも、この場所は何度も調べたはずなんだけど……」
「賢っちのカンでも無理ぽいの?」
「悔しいけど、そうかな……あれ?」
賢が声を上げた。
「何か見つけた?」
「何か、聞こえない? 歌みたいな、旋律みたいな……」
「聞こえないぜ? 通信機越しに夏井さんが歌ってんじゃね?」
「そんな意味のないこと……」
「いや、聞こえる」
火動は確信的に言った。
どの言葉でもない、微かな旋律。不気味なはずなのに、どこか力が溢れてくるような、聞いていると不思議な感覚になる歌だ。
「マジ!? 若者にしか聞こえない音波なのか!?」
「えー、私も仲間外れー!? ぜんぜん聞こえないんだけどー!」
「奥からだ。柞間、この壁を壊して!」
「あぁもう、責任は司令に取らせるぜ!」
柞磨がツルハシを使い、壁を壊す。賢の言うとおり、そこには別の部屋があった。穴が子供ひとり通れるくらいの大きさになった時、奥に何かが見えた。
この部屋よりもさらに狭い空間。
神酒のような容器が2つ。その奥に、ツルに囲まれた一枚の板。携帯端末くらいの大きさ。いつか賢が落としてしまった機械とよく似ている。
「わー! すっげーお宝あったじゃん! これぞ「ピロリロリン♪」ていう隠し部屋だね! レッドグロウがここにいたら、爆弾で爆破してたのに!」
陽給の訳分からん言葉は、誰も気にしなかった。謎の板に視線が集まっている。
「お、おい賢! 手にとって大丈夫なのか?」
賢が板に手を伸ばしたのを見て、柞磨が声を上げる。大丈夫だよ、と賢は笑顔を見せた。手に取ると、板は緑色の光を放つ。やはり、以前彼が持っていた端末と同じ色の光だった。
「みんな、ちょっと離れて」
微かに眉を寄せ、何かを思案する。
途端、小さなロボットが空中に現れた。
「これは……アイビーグロウのちっちゃいやつ!」
「思った通りだ。これは棺の中核を為すもの。これにヘカトンケイルの装甲が合わされば、棺が出来上がるよ!」
「やったー! じゃあさっそく帰ろう! あの青エプロンヤローをぶっ飛ばすんだ!」
陽給は意気込んでいるが、少しだけ引っかかる。
なぜそんなものが、今まで見つからずにここにあったのか? 神の塔なんてものが関わる遺跡とはいえ、誰もが調べ尽くしたはずだ。
まるで、火動達を待っていたような。
「さ、行こう火動!」
「あぁ、そうだな」
疑問よりも、今は解決だ。




