夏井さんとしれー③
夏井紅、元OL。
朝はおまもりのクマさんに「行ってきます」を言って出かける。
「今日から新しい職場……がんばらないと!」
◆◇◆
「巨大……ロボ……!」
実物大のメカ・エリナを見た紅は、全身に震えが走るのを感じた。こんな、こんな夢みたいな企業に、自分が関わるなんて!
「どうだい嬢ちゃん、メカ・エリナは!」
「テレビで見た通りです! すっごいです!」
そして、紅の仕事が始まった。
最初はお茶汲みなどの雑務から始まり、モニターのチェック、報告。
1ヶ月もすれば慣れてきたけど、事務仕事はちょっと苦手。現状はたっくさん失敗している。だが、司令も副司令も文句1つ言わずフォローしてくれる。副司令はちょっと無言の笑顔である時があるけれど。
何か恩返しがしたい。今の仕事以外の、何かが。
そんな折だった。
◆◇◆
「おはよーございまーす!」
「お早うございます」
「夏井君、今日も元気だな!」
ロビーから司令室に入ると、副長と司令が挨拶を返す。
「君のおかげでここも明るくなったからな。感謝している!」
「えへへ……」
頬をてれっとさせる。アマテルは司令室で朝礼を行うので、時間まで待機だ。
だが、野田が規定の時間になっても来ない。連絡もない。
「野田さん来ないですね。電話してみましょーか?」
「そうだな、かけてみてくれ」
と言った途端、ドアが開いた。現れた野田は髪はボサボサ、目は赤く、ゾンビから逃げて来たかの様子だった。
「どうした野田君! 何があった!」
「ふられ……」
「ふら?」
「フラれたんすよぉ!」
司令室に、嘆きが響き渡った。完全なる男泣きである。
「そうか……駄目だったか……」
「せっかくの彼女を……可哀想に……」
マリーゼが呟く。
野田には、今居るガールフレンドにパイロットになって欲しいと頼んで貰えるように依頼していた。だが、それは想像以上に悲痛な結果をもたらしてしまったらしい。
「となると、候補は……」
司令は全員を見回すが、誰もが視線を逸らした。
マリーゼは女性だが、司令曰くパイロットになれる素質がないそうだ。それはそれで特異なことらしいが、今はそんなことは気にしていられない。
「君達、彼女や伴侶は……」
「知ってますっしょ。彼女いない歴年齢っす」
「『ロボは危ない』って断られました」
「いっそ姉ちゃんにも頼んでみましたけど、仕事が忙しいの一点で断られました。母ちゃんは腰痛めてるんでダメっす」
「ネコの女の子じゃだめすかね」
「……万事休すか」
額に手を当て、息を吐く。
「ではYAH!TUBERの薔原きゃろちゃんにオファーを!」
「不可能だな」
「そんなー」
「マリーゼさん、アイドルじゃあ高嶺の花過ぎますよ。マジで言うと柞間の姉ちゃん以上に仕事が忙しくて乗れないっしょ」
となると。
視線が、1人に向く。
これまで会話に加わることなく「ほへー」と聞いていた1人。
「???」
彼女は、純粋に首を傾げた。




