未来へと続く夢:抗う者達①
あの白衣?の男は捕縛された。これで母は何の悪にも関係なく生きていけるのだ。まさかあんなところにあんな奴がいるとは思わなかったが……母は整備斑と別れた時は硬い表情をしていたものの、今は陽給のジョークに微笑んでいる。
……変化は唐突だった。
陽給の言葉に頷いていた途端、母は倒れた。
「火動ママ!?」
陽給が驚いて声を掛ける。だが、言葉は返ってこなかった。背筋に嫌なものが走る。まさか、あの男に何かされていたのか。火動は咄嗟に抱え起こそうとしたが、全ては遅かった。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
母の首元から緑の光が広がり、バリアのごとく火動たちを跳ね退ける。木々の向こうから、黒い破片が集まってくる。それは記憶が確かなら、ファーレンの要塞が墜落した方角からだった。
同時、母の体が浮き上がった。黒い破片に囲まれ、空高くへと消えていく。
「マ、ママさん!? ちょっと、他人のママをさらわないでくれる!?」
陽給が虚空に向かって叫んだ途端、電話が鳴った。着信名を見る間でもない。アマテルだ。陽給にも聞こえるようスピーカーモードにすると、すぐさま声がした。
『火動、今どこにいる!?』
電話の相手は賢だった。いつも冷静な彼には似合わない、焦りきった声だった。
「北公園! 火動ママ……唯架さんがマズイよ! なんか空に飛んでっちゃった!」
『遅かったか……!』
「何があったんだ!?」
『今、唯架さんを中心に、ファーレンの要塞が再生してる!』
「再生!?」
あの黒い破片は、やはり要塞の一部だったのか。けれど、なぜ母が、超機械じみた核などに。
『唯架さんはファーレンの生体コアにされていたんだ。権限を持つ悪人がいれば、またコアにされてしまう』
「まだ……終わってなかった、ということか」
『状況が状況で、火動たちには黙っていたけど……ごめん。まだ残党がいる可能性を考えてなかった。だめだな、僕、賢者なのに……』
「大丈夫だ」
賢を短く励ます。あのまま平穏な生活が送れていたら、必要のなかった情報だ。むしろいつ再発するか、不安になっていただろう。彼の判断は正しい。
『そうだね、火動の言うとおりだ。……このままだと、ファーレンが復活してしまう! 今すぐ本部に来て!』
「分かった……!」
電話を切る。
空は灰色に染まり、残骸で母の姿は見えない。嫌な予感は、最悪を連れて当たってしまった。ファーレンはまだ、母を利用し尽くすつもりなのだ。
怒りを舌打ちで誤魔化し、本部へと駆けだした……のを、止めたのは陽給だった。
「ちょっと待って!」
「この状況で待てるか!」
焦燥は焼き尽くさんばかり。今、他に何を優先する事があるのだろうか。
「バスじゃ間に合わないよ、七八郎さんの軽トラ出してもらえたから、それで行こ!」
話が早い。
見ると、公園のすぐ脇に八百屋のトラックが止まっていた。助手席には人相が悪い事で有名な「七八郎の兄さん」。
火動の焦りが、やや呆れ混じりの賞賛に変わる。こんな短時間で話を付けられるほど、陽給のコミュニケーション力はすごいらしい。自分が賢と話している間に説得したようだが、それにしても早過ぎないか?
火動を見ると七八郎は不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、荷台に乗り込んでも何も言わなかった。
「訳アリみてぇだ、ぶっ飛ばすぞ!」
「お願い、七八郎さん! アマテルステーキハウスまで!」
軽トラは非常に揺れたが、バスより遙かに早く本部へと到着した。七八郎は何も言わずに、再び軽トラを操縦して去って行った。陽給がどういった説得をしたのか分からないが、事情の分からないことによく首を突っ込んでくれたものだ。




