今へと続く夢:日々の終わり①
火動が部屋で一人寝転んでいると、隣から騒音が来た。
「一緒に公園行こ! コットンキャンデー売ってるの!」
「一人で行け!」
「そんなこと言わずに! 男手が必要なの! 火動ママ、お菓子食べに行こ!」
「誘うのか!? 昨日の状況、お前も見てたろ!?」
メンタルが強すぎる!
「だからスイーツで和ませるのさ! 火動、俺は行かないって顔してるけどさ」
陽給の顔が、邪悪に歪む。といっても顔立ちは可愛らしい系なので凄みはないが、このポジティブ野郎からの脅しは間違いなく効く。火動のカンが告げている。
「本当は、甘いもの好きなんでしょ?」
「好きじゃねぇ!」
否定するが、陽給の表情は変わらなかった。
「見てれば分かるよ。副指令にショートケーキで釣られてたし司令と来た時もケーキ真っ先に食べてたし」
「ぐっ……」
なんだかカッコ悪いと隠していたが、無意識がそうさせていたのか。
不覚……!
「さぁ、ミコちゃん達にバラされたくなきゃ一緒に来るんだ!」
「お前の友達くらい、どうでも」
「黒獅子君、じゃなかった、棗君にバラそう「行く」
あいつにだけは弱味を握られたくなかった。
◆◇◆
「コットンキャンディーって、わたあめのでっかい奴なの!」
「そ、そうなのね。詳しいのね、陽給ちゃん」
陽給という子は明るかったが、火動はずっとそっぽを向いて黙り込んだままだ。家の構造から、2階でのやりとりは1階に筒抜けだった。無理矢理連れて来られたのだから、仏頂面でも仕方ない。昨日と朝のことは気にかかるが……。
(……焦らない、焦らない)
母に言われた言葉を思い出す。今はとにかく、陽給ちゃんの気遣いに合わせよう。誘ってくれたのは、火動とのことがあったからだ。
「わたあめなんて、高校生の頃に食べたっきりよ」
「あー! 先週お祭りがあったのに! もーちょっと早く発見されてれば、わたあめ屋さん行けたのに! もったいなかったですね!」
陽給ちゃんは心からしょんぼりして叫んでいる。手に持った日傘がぶんぶんと揺れる。本当に明るい子だ。
「わたあめなら、これから食べに行くんでしょ?」
「コットンキャンディーと、お祭りで食べるわたあめは違うんですー!」
違うらしい。
「そうかしら。ほら、ゲームセンターにもあるでしょ、わたあめ機械」
「え? そんなのありましたっけ?」
ジェネレーションギャップ。
しかし、会話をしているうちに心もほぐれてきた。
公園では住宅地の倍ほどセミが鳴いている。以前ならうるさかっただろうが、今はそれも心地良い。夏のもったりとした、蒸し暑い風。ゆっくりと深く息を吸いこむ。十数年振りの、夏の香り。
これから十分に、この時間を味わえるのだ。
公園とあだ名されているが、実際は市民広場。それなりの広さがある。数分ほど歩き、ようやくそれらしい屋台を見つけた。。
「あったよ! コットンキャンディーショップ!」
陽給ちゃんが黄色い声を上げて近付いていく。
店員は仏頂面で立っていた。
ディールだった。
仇が綿菓子屋をやっていた。
唯架は固まった。ディールも唯架を見るなり、目を見開く。
「貴様っ……火ノ原!?」
「お前、知らないんじゃなかったのか!?」
火動が言うと、ディールは唯架を指差す。
「洗脳されるとはいえ敵に言うかっ。しかし火ノ原、貴様……! あの場所から出られたのか!」
そんなことをかわいいスカイブルーのエプロンで言われても困る。
恐ろしい所業をされた相手が目の前にいる。生まれる感情は、恐怖だけではない。
なんか見ちゃいけないものを見た気分だった。
「……こんな時どんな顔をしていいのか分からないわ……」
「真顔ですよ、真顔」
「真顔になるなぁ! あの男から騙されてこんな場所しか働く場所がないんだよ! それに貴様の生存権はまだ私が持ってぐはぁ!?」
火動が無言で殴り飛ばした。その上陽給に飛び蹴りされた。
「おまわりさんこいつです! 罪のない女の人を脅しました!」
「もうちょっと殴りたかった……」
「小娘、間接をキメるな15歳のくせに!」
陽給に関節をキメられるディールを見ながら、火動が呟いた。
その気持ちはよくよく分かった。




