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今へと続く夢:埋まらない溝②

 唯架は重い溜息を吐く。朝食を食べても何も変わらなかった。火動の頑なな態度も、自分の晴れない心も、なにもかも。


「なんかあったんだね」


「……昨日、うまく話せなくて」


 唯架は、母にそう告げた。こんな時、母は目ざとい。いつも口やかましく話しているが、他人の機微には敏感なのだ。それが生きていく知恵だよ、なんて言ってたっけ。今回も、しっかりと察していた。


 けれど、自分が言えたのはそれだけだった。


 昨日、何か言う前に、はっきりと拒絶されてしまったこと。嫌われてしまったに違いない、とか、傷付けてしまった、そんなことばかり脳裏に浮かんでいく。


 自分もどうすればいいのか分からない。


 形容する言葉すら出てこない。


 黙っていると、母が口を開いた。


「……ひーちゃんから聞いたよ。あんたとひーちゃんの間には、複雑な事情があるんだってこともさ」


「……お母さんにまで、伝わっていたの」


 火動の身に起きたことは、番匠司令から説明を受けていた。破壊者、ヴァースのクローンであることを、両親に話した事も。


「あぁ。くろーんだかなんだか、他所様の孫に失礼なこった」


 母は鼻を鳴らす。はっきりと怒りの意志があった。


「でも不安がるこたぁない。あたしらはもちろん、あんたにとってもあの子は家族さ」


「そう、思ってくれてるかしら」


 クローン人間として、『ハハオヤ』を不気味に思ってないだろうか。


「……私、怖いの。あの子を、とんでもない存在にしてしまったんじゃないか、って」


 ぽつりと口に出していた。


「私のせいで、破壊者になんてしてしまったのかもしれない、なんて……」


 言いながら、いや違う、全てはファーレンのせいだ、と心が叫ぶ。だが心のひとかけらはこうも言っている、自らがもう少しうまくやれば、できていれば……と。


「そりゃふぁあれんとやらが悪いのさ。あんたは少しも悪くない。それに……悪人の細胞だって言うけれど、あの子は見ての通りだ。グレてすらない」


 母、曰く。


 けれど、唯架から見ても、破壊者のクローンかと言われると首を傾げる訳で。


「ひーちゃんは元からあんなだよ。生まれて十数年振りに母ちゃんに会うから、戸惑ってるのさ。それに十代の思春期だろ? 単に照れてるだけ。じきに慣れてくれるさ」


「……そうかな」


「あんたも同じだったじゃないか。中学高校と、あんまり話してくれなくて寂しかったよ」


「そっか……ごめんね、あの時は」


 懐かしい話に苦笑する。母に対抗する、そればかりが頭に浮かんで、やっぱり両親とはうまく会話できなかった。火動も、そうなのだろう、きっと。


「こういうのはね、焦るんじゃないよ。ほら、久々に肩もんどくれ」


「この流れで手伝わされるのね……」


 しかし、この感じは紛れもない母だ。手を置いた肩は、記憶にあるものよりも小さくなっていた。だが、温かさは変わらなかった。


「ところで、火動のことひーちゃんって呼んでるのね」


「孫は可愛くてね……本人は嫌がるけど、ついちゃんづけしちゃうのさ。アタシらはね」


 両親は、火動を孫だと思ってくれていたのだ。


 だったら自分も、ちゃんと「母」として接しなければ。

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