夏井さんとしれー②
喫茶店に入る。暖房がじんわりと全身に沁みる。
番匠はミルクティーを、紅はキャラメル入りのカフェオレを頼んだ。甘く温かいキャラメルを口にすると、心も暖まってきた。
飲み干すと、番匠さんに頭を下げる。
「ほんとーにありがとうございます、番匠さん」
「信条に従ったまでさ。それより、君には何か悩み事があるんじゃないか」
「はいぃ……」
紅は今までのことを話した。会社にクビを言い渡され、文字通り路頭に迷っていた事。ドジすぎて、次の就職先も不安なこと。……を話しているうちに、顔はぐしゃぐしゃ、鼻はぐずぐずになっていた。
「ふむ、就職先か」
「こんなドジっ子にはないですよぅ! このままご飯も食べられなくなって、即身仏になっちゃうんだぁ……!」
「悲観はよしたまえ、夏井君。それより、私のところで雇われてみないか」
「ふぇ?」
聞き間違いか。今、雇う、と聞こえたような……?
「そうだ。私の会社はこういうものだ」
名刺を受け取る。
アマテル所長、番匠千荻。……名前しか書いてない。
「詳しくは言えないが、機械オペレーターを探してるのだ。簡単な作業で、教育体制も整っている。どうだ?」
「そんなの……番匠さんも聞きましたでしょ? あたし、こんなにドジなんです。だから」
「器用さは問わない。というより本当は、元気さを求めているのだ」
「元気さ?」
「君を見ていれば分かる。君に秘められた活力に! これまでも諦めず、ずっと頑張ってきたんだろう?」
「諦め、なかった……」
目の前の男は、自信満々に紅を見ている。
これまで散々だった。怒られても、呆れられても、明日は何かができるはず、そう信じていた。……それを、目の前の輝きから思い出す。
(そうだ、あたし、ずっと……)
やれるかもしれない。
それに、信頼に、初めて受けた信頼に、応えてみたい。
「あたし、やります! やってみます!」
「その勢いだ! まずは我が社を見てもらおう。さっそく明日、真宮駅で待ち合わせだ!」
「はいっ!」




