過去へ続く夢:唯一の十字架①
今回は過去編です!
登場人物
・火ノ原 唯架
女性。
・ディール・ブロイゼン
狂気の研究者。
・ファティア=アノニ
ファーレンの頂点存在。
・金子 継
ファーレンの研究者。一人称は「僕」。
◆◇◆
火ノ原唯架はただ普通に、製薬会社の面接にやってきた。
出されたお茶を飲んだら眠たくなった。
起きたら、知らない天井が見えた。
それだけなのだ。
「ここは……」
知らない部屋。知らない白衣の男。目覚めたか、と隣にいた男が言った。ぼさぼさの銀髪を乱雑に括った白衣の男。しかし、瞳はぎらぎらと光っていた。
彼の横には、巨大な試験管。その中には、何か……胎児だった。見たことがある。
状況が全く飲み込めない唯架に、白衣の男は言った。
「君の子だよ。感動のご対面だな」
「私の……?」
思わず呟いた唯架に、男は首を振った。
「あぁ、胎盤的な意味ではない。君の細胞とヴァースの灰で生み出された、君の細胞を元に生まれた子供だ」
「う゛ぁーす……?」
何一つ飲み込めない。
「破壊者の名前。そのクローンだ。君は生命科学専攻だったろう? その知識を示してくれたまえ。こいつが成長すれば、何万という人間を粛清する兵器を生み出す。『彼』の空想する兵器でな」
「……っ!」
試験管の中の胎児は、ひどく不気味に見えた。触手が生え出してももおかしくない。人の形はしていたが、成長した時、人であるのだろうか。
思わず花瓶を手に殴りかかったが、取り押さえられた。
「君の子なのにひどいものだな」
「勝手に培養したんでしょう……!」
唯架が白衣の男を睨みつけた時、扉が開いた。唯架を取り押さえていた男達が敬礼する。白衣の男も頭を下げた。
「……これは。ファティア様自ら、この女に我らの崇高な目的を?」
ファティアと呼ばれた人影は頷いた。
「……全員、席を外しなさい」
女性とも男性ともつかない機械音声だったが、とても静かな声だった。唯架は反射的に息を吐く。どうやら、少しはまともに話せる人間が現れたようだ。
白衣の男はにやついた笑みを唯架に向け、去っていった。
「先ほどは、ディールが失礼をしましたね」
失礼どころか勝手に細胞を使われたのだが。形式的とはいえ謝られたことに驚いた。人造人間を作ろうとする組織だ、穏やかとは言え油断できないと思っていたが……。
「事前に確認が取れなかったとはいえ、なにも知らないのは酷でしょう」
白い台に乗って運ばれてきたのはお茶だった。
「どうぞ、こちらを」
唯架は迷った。だが、この人ならば信頼できるかもしれない。少なくともあの白衣よりはまともに話が出来そうだ。
一口飲む。甘い、とても甘いお茶だった。
途端、頭の芯がぼうっとする。
ファティアの口元が歪んだ気がした。
ファーレンの歴史。
世界をこの手に。
それは正しく、当然のこと。
「分かってくれたましたか?」
「……はい」
唯架は微笑む。
この子は絶望にして希望。新たな指導者の大切な右腕となる。指導者の元、世界は変化する。
心のどこかが騒いでいる気がしたが、ドリンクバーのお茶を飲めばすっきりした。麦茶とも紅茶とも違う味だが、糖分たっぷりの甘さだ。製造の疲れを癒してくれる。
ドリンクバーはもちろん食事は3食おいしい。ファーレンの目的は世界から見れば危険なものだったが、セキュリティは完備されている。唯架達のいる研究棟には常に銃を持った警備員が付き、寝室も監視カメラがついている。
プライバシーはあまりないが、それも崇高な目的のためだ。そのためならば、ほんの少しの自由くらい捧げられる。




