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祭囃子の夜⑦

 祭りも終わりを迎えようとしている。


「陽給ちゃん、鼻緒が切れそうよ」


「え、あ、本当だ……わっ!」


 かがもうとして、陽給はバランスを崩す。


 目の前には火動。


 思わず体が動いた。支えようとして、


 腕の中に陽給がいた。


(!??!?!??!)


 顔が近づいた時よりも20倍テンパった。


 普段やかましい奴と思えないくらいその体躯はふわふわしていて、細くて、やわくて、


「だ、大丈夫、か……?」


 それしか言えなかった。


「う、うん……ソ、ソースとかで汚れてない? さ、さっき焼きそばがっついたから……」


「あ、あぁ……」


 見ていた水生は、火ノ原早く爆発しろと思った。


◆◇◆


「それじゃあね、陽給ちゃん、火ノ原君」


「ばいばーい! また遊ぼうね、水生ちゃん!」


 陽給は何事もなく手を振っている。水面緒も普通の顔で手を振り返している。


 ……水面緒のあの気持ちを知っているのは、彼女と火動だけなのだ。


 そう思うと、どこか割り切れない気持ちにさせられた。


 けれど、決めたのは水面緒だ。火動に気持ちを託したのも、彼女なのだ。そう思うと、やりきれない気持ちも少し薄まっていく気がした。


「楽しかったね、お祭り」


「……あぁ」


 適当に頷いたものの、そういえばプレッシャーでほとんど何も食べていなかった。かろうじて金魚すくいはしたので、祖母の条件も満たせた、と思う。


「また来年も来よう、ぜ! 今度は賢君や、司令達も誘って!」


「大所帯すぎるだろ」


「いーじゃん、大勢で! 祭りのぜーんぶ食い尽くそうよ!」


 楽しそうに話す姿を見ていると。


(……良い香りだったいやなんでも……なんでも……)


 ない、とは言い切れなかった。


 水面緒と会って、彼女の願いと言うか圧を知って。誰かを好きになるとは、あんなに熱量のあるものなのか。

 なにはともあれ、無自覚ではいられなくなってしまった。


「水面緒め……」


「ん? 何か言った?」


「……別に」


 なんだかんだで彼女の狙い通りだ。


 ……家に帰ったらソーダでも飲もう。買っていたものがまだあるはずだ。


 ソーダで思考をムリヤリに埋め尽くす。家の前で陽給と別れる時も、ちゃんとした顔を作れていたはずだ。


◆◇◆


 家に着いて。浴衣を脱ぐ直前。思い出す。


(火動、あったかかったな……)


 あの腕の中。夏では表せないくらいにあったかかった。


 なんだかゴニョっとした気持ちになって、頬が熱くなる。こんなの初めてだった。確かに、男の子に抱き着いたことは小学校在学中に周囲から止められてなくなったけど。


 それでも、こんなのは初めてで。


「うぃー! なんかモヤモヤする! 早く着替えて、あずき納言ちゃんの動画見よ!」


 急いでいつものカエルTシャツを引っ掴んだ。

これでお祭りのエピソードは終わりです!

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