祭囃子の夜⑥
それなりに人がいない所に3人で行く。陽給には人の少ない場所で花火大会を楽しもう、そう言って。
時計の長針は、もうすぐ12を指そうとしている。
「花火大会、もうすぐだねー」
「そうね。……あのね、陽給ちゃん、話したいことがあるの」
「え、なになに?」
水生は陽給を見つめる。
思いのほかドキドキしていた。当然だ、これから水生人生初のオオゴトに出るのだから。
「……あたし、陽給ちゃんとずっと一緒にいたいわ。大好きよ」
「サンキュー! 私も大好き!」
無邪気な笑顔。
ちょっぴり寂しいが、この笑顔が大好きなのだ。
水生は破裂しそうな心臓を抑え、息を吸いこむ。
「あたしと……あたしと、結婚して下さい!」
空に、花火が上がった。
陽給はきょとんとした顔をしている。
それもそうだ。わざと花火大会の始まりと、告白を重ねたのだから。
「……、」
「火ノ原君、ちょっといいかしら?」
「俺?!」
「す、水生ちゃん!?」
陽給の言葉を聞かず、水生は火ノ原の腕を掴んだ。
「陽給ちゃんは待ってて! すぐに戻るから!」
「おい、水面緒……!?」
「火ノ原君は引っ張られてて!」
なんともしがたい顔をされた雰囲気がひしひしと伝わってきたが、構わず水生は走った。
花火はまさしく本領発揮、重い音を幾重にも響かせている。心臓の音と混ざっていく。
誰もいない公園。色の褪せたベンチを見て、ようやくほんの少しだけ冷静になった。思わずベンチに座り込む。
「し、しぬかと思った……想像以上に照れるものね……!」
「いいのか、花火にかき消されてたっぽいけど」
「計算のうちよ。……計算のうち」
火ノ原は、きっかり人一人分開けて座った。古代のソーシャルディスタンスさながらである。
「……お前、他の男子ともこんな話してんのか?」
「してないわよ。あなたが陽給ちゃんの彼氏で、あたしの周囲に全く関係がないから話せるだけよ」
「……」
火ノ原は微妙な顔をした。
「でも、気は済んだわ。後は占いの神様に任せるつもり」
「占いの紙?」
「後は野となれ山となれ、よ」
そして。
「で、どうだった? 恋敵が破れた気分は? ……いやいいわ、余計虚しくなるだけだし……」
「俺もそれは聞かないほうがいいと思う……」
言いながら、火ノ原は射的で押し付けられたハンカチを水生へと突き出した。火ノ原のおばあさまにあげようと言われた、簡素すぎるパイル地、明るい水色のハンカチ。
「……やる。走っただろ、それで汗拭けよ」
「……女の子にそれを言うなんて、デリカシーがない人ね」
封を開け、顔を噴く。緊張した所為か、目元も濡れている。そんな折に、新しいハンカチは便利だった。
「2人とも! 大丈夫だった?」
「ええ。心配掛けたわね」
陽給の隣には、司令をはじめアマテルの面々がいた。
「おっ、火動君達も戻ってきたか。友達同士で楽しんでくると良い!」
「はーい!」
司令は意味深な笑みを浮かべ、火動を見た。……面倒なので返さないでおいた。
「……誰? 今のおじさんたち」
「水生ちゃんには話しちゃおう! アルバイト先の人だよ! みんな良い人でね、」
「陽給ちゃん、中学生はアルバイト禁止なのよ……!?」
「え”」
縋るような顔でこちらを見るな。火動も言い訳を探したい。




