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祭囃子の夜②

 会場に行くと、既に陽給達が待っていた。陽給は金髪をまとめ、水色の浴衣を着ている。隣には赤い浴衣を着た、知らない女子が。彼女が水生だろう。


「やっほー! 甚兵衛似合ってるじゃん!」


「ばあちゃんに着させられたんだよ」


「さすがキコばーちゃん。祭りには手を抜かない」


 そこで、陽給は隣の女子を紹介する。


「この子が水面緒水生ちゃん。占いが好きなんだよ」


「よろしく。火ノ原君」


 水生は穏やかに微笑んだ。頭の両側に垂らした、細い三つ編みが揺れる。見た目からして大人しい性格のようだ。ひょっとしたら陽給のようなガンガン行こうぜ的な女子が来るかと思ったが、これなら割と静かに過ごせそうだ。楽しむ2人の跡をついていき、適当に食い物でも買えば祖母からのミッションもコンプリート。


 なんだ、簡単じゃないか。祖母に脅された時は割とびびったが、これなら。


「じゃ、さっそく牛串買おう!」


「高いの買うんだな、お前」


「この日のために貯金してきたんだもん、使わなきゃ! 2人はどうする?」


「金がない」


 本当は祖母からの2000円があったが、食う気がないので適当に言っておく。


「あたしも。お肉いっぱいはちょっと重いかな」


「はーい! ちょっと待っててね!」


 陽給は下駄で器用に走っていく。


 その場には、火動と水生が残される。ちらりと水生を見た。三つ編みといい、陽給を眺める目といい、大人しいを体現したような女子だ。会話しなくても別に大丈夫……。


 と。


 急に水生が距離を詰めて来た。大人しいというよりは、どこか図々しさを感じる距離の詰め方だった。


「火ノ原君。陽給ちゃんとはどうなの?」


「どうって」


「もう、鈍いわね。恋愛のことよ」


 噴いた。


「あれれ。その様子を見ると、結構意識してるわね」


「だ、誰が……」


 咳き込みながら言うが、水生の目は真剣に灯堂を見ている。黒目がちな目が、標的のように見つめてくる。笑顔なのに圧を感じる。大人しい印象なんて吹き飛ぶ圧で、だ。


「陽給ちゃんのあの可愛さからはそれはそれは意識するっきゃないわよね。私も男だったら結婚したいくらい。陽給ちゃんは男性と結婚したい派なので潔く諦めるのでした」


「……」


 大人しく見えて、ものすごい強火系女子だった。色事に疎い火動でも分かる「炎」の具合だった。


「なので恋愛を積極的に応援します! 今日はお祭りよ! 思い切り距離を縮めてキッスくらいしちゃいなさい!」


「ばっ、誰がっ……!」


 水生が期待するような、というかそんな関係など1ミリもない。単に昔遊んでいた、少し前は同じ部屋に住んでいた、今は隣の家というだけで。


「というか、俺とあいつはそんな仲じゃ……」


「あら。陽給ちゃんの話じゃ、2週間くらい同棲したって言うじゃない」


「同棲じゃねぇ!」


 誰がどう見ても同棲だったが。


「だから、陽給ちゃんも意識してるはずよ。あの子、恋愛には鈍いから、こちらからグイグイ行かないと10年経っても進展しないわ。だから」


 ぐい、と顔を近づけてくる。


 2つの丸い黒が、微動だにせず火動を映している。まるで蛇に睨まれたカエルのごとく動けない。


「陽給ちゃんとキッスすること。それが火ノ原君の任務よ」


「……できなかったら」


「そうね。言った直後だけど、キッスはハードルが高いかもだから、お互いを意識し合うくらいがいいかしら。できなかったら……どうなるか、分かってるわよね?」


 フェードアウトしていく声が怖い。


 具体的にどうなるか言わない分、恐ろしい空想が膨らんでいく。思わず口に出していた。


「嘘だろ……」


「ちょっと羽目外すくらいできるでしょ?」


 無理ゲーだった。


 そこまで話したとき、陽給がやって来た。


「ねー、何話してんのー?」


「話してねぇよ!」


「うふふー。こっちの話よー」


「いいなーいいなーヒミツ話?」

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