祭囃子の夜①
火ノ原家と陽御崎家は、隣同士である。
だから、窓と窓の会話だってできるのだ。
「でさー! あずき納言ちゃん、20段パンケーキに挑戦しててさ! なんでか知らないけど、パンケーキの材料にイクラも混じってんの! トッピングならアラザンとかイチゴでいいのに謎じゃないー!?」
「そうだよな」
「火動も分かるー!? なんか人の顔みたいになっててチョイコワだったー!」
話す事はYAH!TUBEやら、部活に行ったとか。今日あったことなかったことを、適当に陽給が報告する。ない日もある。合図は一つだけ。携帯に「今ヒマ?」のメッセージが来るか来ないか、それが違いだ。
今は夏休みなので、陽給もヒマなのか、毎日こうして話している。火動がするのは相づちを打つくらいだが、なんとなく時間を潰せるので重宝している。
「でさ。明日のお祭りどうする?」
「祭り?」
陽給は絶望そのものの顔をした。
「8月の第2土日は毎年お祭りじゃない!!! 火動今まで何してたん!?」
「何って。寝て」
「寝るのは許さねーっ! 今年は引きずってでも連れていくっ!」
逆鱗に触れたらしく、めっちゃ怒られた。耳がキンキンうるさいが、機嫌を秒で取り直した彼女は言う。
「明日は友達も来るの」
「ミコとトラか?」
もう名前を覚えた。フルネームは覚えてないのに、あだ名だけ覚えている。
「ううん、2人とも旅行だって。水面緒水生ちゃんって子。前の学校で仲良しだったんだ」
ふうん、としか。毎年行かない祭りに、一人増えてもどうということもない。陽給は浴衣を着る気満々だが、近所の祭り。自分はTシャツにズボンでいいだろう。
次の日。待ち合わせの少し前の時間。適当な服装で、祖母に祭りに行く旨を伝える。
「火動、それで祭りに行こうってのかい……!」
「ば、ばあちゃん……!」
ゴゴゴゴゴゴというオーラすら纏う祖母の手には、紺色の甚兵衛。
「いつの間に準備したんだよ……」
「いつか一緒に祭りに行こうと思ってね。なのにあんたと来たら、毎年自分の部屋に引きこもっちまって……」
「わ、悪かったよ」
説教になりそうなので、適当に謝っておく。着ると、サイズはそれなりに合っていた。本当にいつから準備していたのだろう。
「ホントはアタシも行きたいとこだけど、陽給ちゃんと一緒ってんならヤボなことは言わないよ、友達と思い出作って来な」
そして、1000円札2枚を取り出した。
「これ。軍資金だよ」
「サンキュ」
「言っとくけど、使わずに貯めこんだら逆に2000円払ってもらうからね」
「……わ、分かった」
思考を読まれていた。というか2000円払えって、それはそのまま返せということでは。
無言のプレッシャーを感じながら、火動は家を出た。




