ドキドキ★同棲!?パニック!:上
火動は、陽給との同居が始まった時を思い出す。
◆◇◆
「火動、家電の説明書はしっかり読むんだよ。しっかりね」
祖母に言われた通り、ちゃんと説明書は読み込んだ。とりあえず一通りの動作は理解する。
悔しいが、先日の野菜炒めの件で思い知ったように、炊事洗濯掃除は陽給の方が上だ。こちらとしてはミスできない。
翌日。
「火動ー! なんか洗濯機止まっちゃったんだけどー!」
「お前操作知らないのかよ!?」
「家のと同じでできると思うじゃん!」
「説明書読めよ……」
言いながら、洗濯機は全部同じ操作ではないことに戦慄していた。うっかり実家に帰った時、同じ失敗をするところだった。危ない。陽給と同じ失敗はしたくない。
よく見ると、原因が分かった。火動が操作すると、洗濯機は無事に動き出した。
「すっげー! 見ただけでできるの!?」
「……偶然だ」
キラキラした目で見られると、それしか言えなかった。
洗濯が終わったので干しにかかる。
2人分の洗濯物を運ぶ。実家に居たときは、たまに手伝わされていた。3人分より軽い……ともいえない。
Tシャツ2人分、シャツ2人分。このやたらと短い半ズボンは陽給のものだ。体操服より短いが、干すぶんにはズボンより簡単で良い。水を吸った重いデニムを、洗濯バサミで挟んでいく。
タオル類を干した後、籠の中に華やかな色合いの洗濯ネットが入っていることに気付いた。昨日買い出しに行ったとき、誰かがカゴに入れていたものだ。
(なんだったっけ)
確か洗濯ネットは形の崩れやすい服を守るための物。冬にセーター類を入れる。
そうでなくとも、レースのついたブラウスが入っていることがあったが、陽給が着ていた服にそんな繊細なものがあっただろうか。
出会ってから今まで、イラストが描かれた白いシャツや短パンしか見ていない。
ジッパーを開ける。
固まった。
中には鮮やかなオレンジの布が入っていた。縁取りにイエローの小さなフリルがついている。
どう見てもブラという形状であり、間違いなく陽給の下着である。
(い……いやいやいや)
思わず赤面し、額に手を当てる。
これは布だ。単なる布の塊だ。下着ならば、小学校に入りたての頃、祖母のものを干したこともあった。それと同じじゃないか。何を意識しているのか。陽給に言って干してもらうまでも無い。というか頼むとなんか負けた気がして悔しい。
紐部分を手に取り、速攻で洗濯バサミにかける。もう一つの分も手にとって即ピンチへ。
ありえないほど柔らかい布の感触が、どうにも頭に残った。これまで触ったことがないほど滑らかな感覚。
振り払うように、大きく息を吐いた。1秒の出来事とは思えないほど疲れていた。なぜ洗濯物を干すのにこれほど疲れなければならないのか。
「火動ー! そろそろガッコいかないと遅れちゃうよー!」
「……分かった」
後は自分の下着だけだ。干そうとして。
陽給の下着の隣しか空いていなかった。
「……………………」
無理矢理ハンガーにかけた。
次の日。下着がなんだか伸びていた。
◆◇◆
「洗濯物取り込んだよーん」
どさっと音を立てて、リビングに洗濯物が放り投げられる。フローリングの上には、あっという間に服の山ができた。
「こういう時、すぐに畳む派と畳まない派で血で血を見る争いが起こるとか」
「生活習慣の違いだな」
「キヨばーちゃんはどうしてたの?」
「……取り込んだらすぐ畳んで……くれてたな……」
祖母がぱぱっとやってくれるとはいえ、任せきりもなんだかなんだか。ということを初めて思った。こうして他人の前で言うとまた違うらしい。
こうなると畳まないという選択はないだろう。取り込まれた服の山から自分のものを探し出し、畳み始める。
「ふぇー。キヨばーちゃんすごいなー。私んとこ山の中の家だからさ、たまに湿気てる時あるんよ。しばらく放っとく癖がついちゃってさ」
「そりゃ駄目だろ」
「反省してまーす。だから今! ここで! 畳む!」
大仰に言い、陽給も洗濯物を畳み始める。……その中には、火動を登校前から抜群に疲れさせたあの下着も入っていた。当然である。あれだけ疲れさせた一品を、陽給はなんでもなく畳み、脇へ置く。その手つきは手慣れていた。とりあえず4つ折りにしている火動とは歴戦の差がある。
「ん? この下着気になるん?」
「なるかっ!!!!!」
「気に入ってるんだよねーこれ。ビタミンカラーでさ、元気出るっていうか! ちっちゃいフリルもかわいいし!」
「解説するな!」
で。
勇気を振り絞り、火動は言った。
「陽給、自分の物は自分で干そうぜ」
「え、なんで?」
「……ほら、変な風に干されたら困るだろ」
「変な風って?」
「…………ばあちゃんに、靴下片方無くされた、とか……」
「あ-、あるある。干し手と取り込み手の伝達ミスで起こるあれな」
適当に絞り出した言い訳だが、陽給的にはあるあるだったらしい。干し手ってなんだよとか、もう言わないでおく。内心で息を吐く。これで毎日しぬほど恥ずかしい経験をする羽目にはならなくなった。




