アイドル+パイロット=!? ⑥
きゃろは口を開いた。
アイドル・薔原きゃろなら、どうするか。まずは、笑顔を浮かべた。
「さっきは言えなかったけど。ありがとう、あたしを守ってくれて」
「いえ。私はあなたを危険に晒してしまって……」
「……それより、聞きたいことがあるの」
ジャンの言葉を遮り、きゃろは聞いた。
「あんた、なんで逃げなかったの。あんたは副司令、あたしはただの一般人。逃げても良かったのに」
「大切な人を置いて、逃げられる訳がありません」
きゃろはジャンの目を見た。真っすぐきゃろを見ている。逃げも恥も、不誠実もない。ただ事実を事実として受け止めている。胡乱な男と判断したのはどこの誰か。誰よりも真摯に、きゃろの発言を聞いてくれるじゃないか。
「……ごめんね」
素が出た。
同時に、この言葉が言いたかったのだと気付いた。強がりが外れるまで、こんなに時間がかかるなんて。
「……ていうか、あたしが強がれたのはあんたがいたから。ファンの前で涙を見せるのは、引退の時か嬉し涙だけ。だから……ありがと。アイドルとしてのあたしを守ってくれて」
ジャンは微笑んだ。きゃろも笑顔を浮かべた。
「今のあたしは今アイドル100点満点中、マイナス80。だから、エスコートしてくれないかしら。こんな、マイナスのあたしが、再び輝けるように」
返答はなかった。むしろ表情すら変えなかった。
「……だめ?」
と。夏井がジャッキーを見。ふむふむ、と頷き。
「嬉しさのあまりNOW LOADINGしてるみたいです!」
「ちょっ!? 固まんないでよ、あたしの発言が流れるじゃない!」
「だ……大丈夫、です……プランは……すぐにきめられ……」
「落ち着けー!」
4.
海辺の公園だった。
「海辺の公園。それがファーストライブだったでしょう」
「よく知ってるわね。閑古鳥が鳴くくらい人のいないライブだったのに」
「DVDで見たんですよ。観客の人数なんて関係ない。ステージ上のあなたは、輝いていた」
「……て、照れるんだけど! 正直、トラウマ級だったし!」
「私にとっては大事な思い出の1つですよ?」
「むがー!」
素できゃろは唸った。今まで多数のファンを相手にしてきたけれど、表立ってこんなことを言われるのは初めてだった。
「よ、よく考えると」
話題を変えよう。アイドルは褒められて輝くけれど、輝きのあまりなんか爆発しかねない。
「戦場に出るアイドルなんてアニメでしかないわよね。空中要塞かっつの」
「空想が現実になった瞬間ですね」
「ま、VTRはお蔵入りにしたけどね。アイドルが撃たれかける映像なんて、他のファンに見せるわけにはいかないでしょ」
「……理想なら、華々しく勝利を飾らせてあげたかったんですが」
「責めてる訳じゃないの。ほんとに……ほんとに、あんたに感謝を言いたいだけだから」
「……」
「ありがとう。あたしを守ってくれて」
笑顔を浮かべる。
今朝練習した通りの、最高の笑顔を。
「今のあなた、最高のファンよ」
そして。
「また固まるなーーー!!!! 動けーーー!!!!!」
◆
「サインもらっちゃいましたね」
「家宝にします!」
「……副司令って家も私生活も知らないけれど、趣味はすんげー知ってるんだな……」
「趣味ではないですよ、ライフワークですよ」
「そうなのか……」
「なんでアイドルが好きなんです?」
「……私、偉い人の執事をしてましてね。刺激が欲しいので、アマテルに入ったんですよ」
だから段取りがあんなにうまいのか。
「アイドルって非日常でしょう。自分と全く違う職業に、楽しそうな笑顔に、憧れたんです。……ともあれ、巨神は当分懲り懲りですね。ヘカトンケイルの操縦だけで精一杯です」
彼はそれで納得してくれたらしい。
司令が言う。
「一瞬であれだけの追加空想を行うほど、思い入れが強かったことだしな。そんな存在を危機に晒したことになってしまったからには、心身の負担も大きいだろう。しばらく休んではどうだ」
「いえ。仕事のミスは仕事で取り返しますよ」
◆
ちなみに。甲原家にて。
「うわ、今日のきゃろちゃんの配信は急遽中止か……」
「あなた、そのアイドルだけは推してるわよね……」
「なーんか応援したくなるんだよ。あんなちっちゃな体で歌に踊りに企画に頑張っててな。……紺乃、むくれるな。妻と好きなアイドルくらい分けてるさ。……ヒロも引くな。大人の男だって推し活の1つくらいするもんだ」
言うと、ヒロは眉を完全に寄せたまま答える。
「分かんなくはないけれど、どうにもできない感情ってもんがあるんだ」
「冷静だな、お前……」
パチは「ごはんは?」と帥人に擦り寄った。
◆
そして。
「今しかないわよね」
やりたいことは、やらなくちゃ。いつ銃撃されるかも分からない、というのは大げさすぎるが、いつ何が終わるかは分からないのだから。
以前来た、コラボのメールに改めて目を通す。ピンク色の髪をした、イマドキな女の子。
「名前はエアリス・アンビジャッジ。あんまり配信見たことないけど……よろしくお願いします、っと」




