アイドル+パイロット=!? ⑤
ドッグに戻ってくると、司令がいた。表情は無そのもので、激怒具合を感じさせる。
ジャンは全ての処分を受け入れる姿勢で、頭を下げた。
「……処分は、如何様にも」
「……ごめんなさい」
さすがに圧に圧されたのか、きゃろも謝罪の言葉を口にする。
「ふむ」
司令は2人を睨むと。
「い”っ!」
「いだぁっ!?」
「これが処分だ。文句は言うなよ」
「……はい」
痛む頭を下げる。ゲンコツなど甘すぎる裁定だ。これが番匠ではなかったら、降格どころか追放にされていてもおかしくない。賓客を銃口の前に晒すなど、副指令にあるまじき失態である。
司令はそれ以上何も言わず出て行った。
ジャンは隣の女性を見る。涙目で頭を押さえていた。
「……あなたには、詫びの言葉じゃすみませんね」
「……そうね。反省してなさい」
◆
きゃろはそのままドッグを出た。マネージャーに何も言わず、更衣室へと向かう。
扉が閉じた途端、震えが蘇ってきた。床にしゃがみ込む。
怖かった。
悪質なファンに恫喝された時よりも、ライブで閑古鳥が鳴いた時よりも怖かった。
「……反省するのは、あたしの方なのに」
けれど、そのまま動けなかった。
3.
「むしろ、ジャンさんには礼を言うべきじゃないすか? 守ってくれたんだし」
「で、でも、戦場の真ん中で巨神が砕けたら怖いし……生身だし、泣かなかっただけましかもだし……あたしなら絶対泣いてます……」
「いいんですよ。オーバーフローしたのは私の責任です」
「あのアイドル、命令違反しなきゃもっと良かったんすけどね……」
納得できないのだろう、似都望が呟く。
「似都望さん、あまり彼女を責めないで下さい。彼女は一般人だ、取り乱さなかっただけですごいことです」
「……あいっす」
「それよりも、ですね」
ジャッキーは大きく溜息を吐く。
「ファン失格です……アイドルの、推しの命を危険に晒してしまったファンは……0点……」
「じ、状況が悪かったんすよ! だから前向きに捉え……て、っすね……それは、もう少し先っすかね……」
よほど落ち込んだ顔をしていたのか、似都望の声が小さくなっていく。
PRも台無しだ。彼女からも嫌われているに違いない。もちろんジャッキーからの気持ちは変わらないが、好かれたい対象に嫌われるのは相当に堪える。
似都望は整備のため出て行き、1時間ほど経った後。
「……夏井さん、なんでいるんですか?」
まだ部屋に夏井がいた。彼女も今回の戦闘結果をまとめなければならないのに。座って、なぜか設計図を読んでいた。彼女はジャンに笑顔を向ける。
「ジャンさんが落ち込んでいるので……ほら、落ち込んだときって、お腹空いたけどおにぎり買う気力も無いって時あるじゃないですか。そのためにいます! ぜひパシって下さい! あたしの分のお仕事は残業すれば大丈夫です!」
ジャッキーは脱力した笑顔を浮かべた。この女史、ドジすぎるあまりに感情を乱されたことは両手の指では足りないが、少し認識を改めなければならないようだ。
「……残業はしない方がいいですよ。私もそろそろ大丈夫です。戻りましょう」
強がりだ。本当は夏井の言うように、軽食を買う気力もほとんどない。
これまで通り、動画の向こうから応援しよう。姿を見せれば今回の恐怖を思い出させてしまうかもしれない。ライブに行くのは……変装しようかなぁ。
と。
「あれ、きゃろさん、帰ったんじゃなかったんですか?」
そこには、スーツを脱いで元の私服になったきゃろがいた。固く唇を噛み締め、ジャンをじっと見つめている。
◆
どのくらい時間が経っただろうか。とりあえず、服を着替えられるくらいには気力が回復した。私服で更衣室を出ると、司令がいた。
げ、と体が固まる。あれだけ怒っていたのだろう、また何か小言を言われるに違いない。
しかし、向けられたのは穏やかな表情だった。
「今日は大変だったな、薔原君」
「……怒ってないの?」
「言っただろう。あれで処分は終了だと」
司令は先ほどの怒りが嘘のように、豪快に笑う。
「ジャン君とは話したか?」
「……まだ。何を話していいのか分かんなくって」
「本心を言えば良い。例え恨み辛みでも、ジャン君なら受け入れてくれるはずだ」
「……本心」
素の自分はもう怖いから帰りたいと言っている。ジャンとも話さず、家に帰ってお肉食べて泡風呂に入って寝たいと言っている。
けれど、アイドルのきゃろちゃんならどう言うか。
きゃろの空想を練りに練って作り上げた、最高の女の子は。
「分かった。あたし、あいつに会ってみる」
「あぁ。まだドッグにいるはずだ」




