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アイドル+パイロット=!? ④

 きゃろに言われた通りのコックピット、そして巨神が出来上がった。


「ふうん、なかなかやるじゃない」


『どうも』


 飄々とした声だ。正直きゃろの好みではないが、好みかそうではないかでアイドルは務まらない。ファンの期待には応えなければ。


 くるりと後ろを振り向く。きゃろが描いてなかったところもちゃんとできている。見えない箇所も考察したのだろう。あの男、なかなかのファン魂だ。


「敵影近し。……カメラが側にあるの慣れないなぁ……」


「だいじょーぶよ、敵兵たって、要するにでっかい鉄の塊なんでしょ? ウサちゃん号でぶっ飛ばしてあげるわよ!」


『お願いします。頼りにしていますよ』


「まっかせといて!」


「敵兵近い。もうじき交戦するぞ!」


「はい」


 ジャンは淡々と答える。


(……面白くない)


 きゃろはウサちゃん号を反転させ、カメラに鋼鉄のウサギを映す。ばっちり敵の機体(スペなんたらとしか覚えられなかった)もカメラに映る方向で。


「みんなー、あれが偵察機だよ! みんなのことコソコソ見やがってすっごくあぶない奴! でも安心して、これからきゃろちゃんがあれを解体しまーす!」


 超絶決まった横ピース。


「気をつけろ! 相手は本物の武装組織だぞ! 偵察機といえど油断は禁物と言っただろうが!」


 司令が激怒するが、あんなアイドル門外漢の言うことなんて聞く必要ない。


「えー、このロボが守ってくれるんでしょ? 怖いものなんてないもん♪」


「きゃろさん、司令の言うことを聞きましょ「きゃろちゃんビーム♪」


 鮮やかな薔薇色のビームが敵を直撃した。丸い機体は一瞬で粉々になる。心が爽快感で満ち溢れた。

 ロボット撃破なんてゲームでしかしたことがない。それが現実に起こっている。きゃろは一瞬アイドルの矜持も忘れてビームに没頭した。敵はビームが当たる度に砕け、面白いほど圧倒的優位に立たせてくれる。


「これ、最高じゃない! ビーム! ビーム! しびびーむ♪」


「おい、薔原君!?」


「うるさいわねー、もーちょっとしばいてから、もとい目立ってから! 鮮やかな勝利にオーバーキルはつきものでしょう?」


 そろそろ灰になる頃合いだ。そうすればいつものキメ、きゃろちゃんジャンプを見せる。ウサギの姿だが、ちゃんと可愛く華やかに見えるように計算している。



「すっかりゴキゲンですね……」


 ジャン的には最高だが、戦況的にはよくない。倒した敵に気を取られ続けるのは、ここに隙があると宣言しているに等しい。その上司令の機嫌もそろそろ最低値を更新する辺りだ。普段穏やかな人がキレると恐ろしいのは十分すぎるほど知っている。


 その時。


 背後で殺気が膨れ上がった。


 何なのか判断するまでもない。伏兵か、それとも偵察機が破壊された事を不審に思った別機体か。ただ思ったのは、きゃろを守らねばということだった。


 守るためには、手段は1つしかない。追加空想だ。しかしこの量産機では耐えられない。副司令として蓄えた知識が、それは止めた方が良い、と囁く。


 だが、ジャンの無意識を受けた棺は止まらなかった。


 ウサギの表面が硬質化する。伏兵のナイフを弾く。さらに背中から8本の腕が生えた。恐らく深層意識にヘカトンケイルがあったのだろう。伏兵に絡み付き、動きを止める。


 そこまでだった。


 薄緑の光に照らされていた棺が、大きくひび割れた。ヒビは広がり、無数の黒い破片となって地に落ちていく。


「棺が崩れた!?」


「負担が大きすぎたのだ! 機体丸ごと変える空想だ、エネルギーが違いすぎる!」


 ジャッキーはキャシーに叫ぶ。


「きゃろさん! 緊急事態です、下ろします!」


「え、何?!」


 コックピットを地面に下ろす。ジャッキーが棺から出ると同時、完全に光となって消失した。後は無数の残滓のみ。欠片すらない。残滓を振り切り、キャシーと伏兵の間に立った。



 なんかすごい音がしたと思ったら、ウサちゃん号が崩れて地面に落ちた。


「ちょっとどういうことよ!? 安全なんじゃないの、これ!」


「事態が変わりましてね」


「……え?」


 目の前には、巨大な銃口があった。なにか細いものが絡み付いていて、まだ標準は定まらない。だが停止した途端、人間2人などすぐに焼き尽くしてしまうだろう。そう本能が告げている。全身に震えが走る。泣き出したい。叫び出したい。逃げ出したい。


(……いや)


 唇を噛み締める。そんな醜態を晒す訳にはいかない。それがアイドルきゃろだ。最後まで、最期の瞬間まで、自分であり続ける……!



 ジャンは後悔していた。


 あの時提案した自分はあまりにも愚かだった。不確定で、命をすぐに取られる戦場になど連れて行くべきではなかった。自分の愚かな判断で、愛する女性を、命の危機に晒している。


 せめて、この女性だけは守らなければ。


「きゃろさん、今のうちに逃げて下さい。私が囮になります」


「バカ言うんじゃないわよ……!」


 きゃろの声は震えていた。しかし、真っ直ぐに前を見据えていた。


「アイドルがファンを見捨てて逃げられる訳がないでしょう……! こんな逆境、アイドル・きゃろには平気なんだから……!」


「きゃろさん……」


 もうこの手しかないか。……そう思い、包帯に手を掛けたとき、熱風が髪を揺らした。


「ダイレクト・アターーーック!!!!」


 砂嵐が周囲を包む。ジャンは咄嗟にきゃろを庇った。


「ぶぇっ!?」


 砂が思い切り口に入ったらしく、きゃろの濁った悲鳴。しかし無事だ。


 目の前では、量産機が、無人機を押し潰していた。


「前面装甲に全振り! よっし、死ぬ気でやってきた夏井さんIN町井成功!」


 インカムからは焦燥しきった町井の声が聞こえる。状況は全て彼が説明してくれた。


「副司令、聞こえますか! 夏井です! 今のうちに逃げて下さい!」


「きゃろさん、しっかり掴まっていて下さいね」


「なっ……」


 インカムからは「夏井さん、俺が言うまで抑えてて! 合図したら銃口びっちり当ててその場でずがーん! ずがーんですよ!」という町井の指示が。


「ジャンさん! ここに乗って下さい!」


 似飛望の声だ。鋼鉄の手の中にはハコ。


「行きましょう、きゃろさん!」


「ああもう、敗走ってサイテー!」


 悪態をつけるくらいには回復したらしい。驚異的なメンタルだ。

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