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帝国新英雄物語  作者: あるでるの
第一章 門出
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ここは…

# 日記:地球歴 残存記録 第182日

# 場所:不明


目が覚めたとき、俺は自分が死んだと思った。最後に残っている記憶は、戦闘機のコクピットで炎に包まれ、墜落の衝撃——それだけは鮮明に覚えている。


なのに今、俺は清潔な軍用ベッドの上に横たわり、消毒液の匂いがする白い天井を見つめていた。


「天国ではないぞ?」


その声は低く、落ち着いていた。振り向くと、銀髪を短く刈り込んだ軍人が椅子に座り、湯気の立つカップを手にしていた。彼の胸元の軍章には、私が奴隷兵時代に遠くから見たことのある、高位の階級章が光っている。


反射的に飛び起き、ベッドの上で土下座した。地面に額をつける習慣は、奴隷としての半年間で骨に刻み込まれた。


「私のような奴隷を助けて頂き、誠にありがとうございます!」


「恩人を助けることは当然のことだ」


彼の声に嘲笑はなかった。ただ事実を述べるような調子だ。


「それに君は既に奴隷ではない」


俺はゆっくりと顔を上げた。頭が混乱していた。奴隷ではない?俺が寝ている間に一体何があったのか?


彼はカップをテーブルに置き、一枚の電子パネルを取り出した。青白い光が暗い病室を照らす。


「南部方面軍総司令、アルカディア=ガルガンティア総司令閣下から恩赦が下った。君の功績に対して、奴隷身分の解放、帝国市民権の授与、帝国軍正規部隊への加入及び伍長への昇進」


パネルには私の新しい顔写真——おそらく意識を失っている間に撮られたもの——の横に、「エドワード伍長」という文字が点滅していた。下には長い識別番号。奴隷番号ではない、市民としてのIDだ。


「私が…伍長?」


「そうだ」


彼はパネルをベッドの脇に置き、再びカップを手に取った。


「私はザビーダ=イルメシアスだ。帝国において男爵位であり、帝国空軍少尉を拝命している。南部方面軍において航空部隊の隊長をしている」


少尉?航空部隊の隊長?私の知識では、航空師団を率いるには大佐か少将でなければならない。疑問が口をついて出た。


「まことに失礼なことをお聞きいたしますが、航空部隊の指揮官にしては階級が低くありませんか?」


ザビーダ少尉は一瞬目を細めた。叱られるかと思ったが、彼はむしろ興味深そうだった。


「なら君は航空部隊の指揮官にはどのくらいの階級が必要だと考えるか?率直に答えなさい。敬語は不要だ」


私はためらったが、彼の目が許容を促しているように見えた。


「南部方面軍が陸軍と海軍に特化している部隊ということは、奴隷部隊にいたお話好きな軍人から伺いました。しかしそれでも、航空師団を率いるには、大佐や少将クラスでなければ…」


「君は、民間人にしては軍について知識があるようだな」


「アマチュアのサバイバルゲームが好きでした。母国では現役の兵士達と撃ち合ったこともあります。その時に色々と教わりました」


「母国」という言葉が口をついて出た。地球のことだ。もう二度と戻れない故郷。胸が一瞬、締め付けられるような痛みを覚えた。


ザビーダ少尉はうなずいた。


「君の言う通り、方面軍における航空軍を統括するには、大佐であることが必須条件となる。ただ、わが軍では航空軍の殆どが撃墜され、多くの将校達が戦死した。生き残っている最上位が私になる」


彼の声には感情の波紋がなかったが、その言葉の重みは病室の空気を変えた。ほとんど全滅した航空部隊。生き残った最上位が少尉だという現実。


「なるほど…」


「それと、君はこれからエドワードと名乗るように。奴隷前の名前と認識番号は忘れろ」


忘れろ。簡単な命令ではない。奴隷としての半年間、俺はコードで呼ばれていた。この半年は、本当の自分の名前さえ思い出せない夜もあった。そして今、新しい名前を与えられる。エドワード。響きは悪くない。だが…


「少尉に従います」


ザビーダ少尉は立ち上がり、窓の外を見た。


「動けるか?」


私はゆっくりとベッドから足を下ろした。全身に鈍痛が走るが、立てる。歩ける。


「ええ。激しい動きは難しいですが」


「少し、君の戦闘能力を確認したい。別に対人戦闘を今からしろとは言わん。射撃能力と航空シミュレーションにて腕前を確認しておきたいのだ。航空シミュレーションも軽くでいい。」


シミュレーション。奴隷兵時代、俺は地上部隊に配属されていた。しかし戦闘機の操縦——それは別次元の話だ。


それでも、かつての趣味でフライトシミュレーターゲームに没頭した日々を思い出す。今回だって敵戦闘機をあれだけ撃ち落としたんだ。


「それでしたら」


ザビーダ少尉はドアに向かって歩き出した。振り返らずに言う。


「では、ついてきたまえ。エドワード伍長」


俺はベッドの脇に用意されていた軍服に着替えた。生地は奴隷兵の粗末な制服とは比べ物にならないほどしっかりしている。胸元には伍長の階級章が縫い付けられている。まだ慣れない重みだ。


廊下に出ると、ザビーダ少尉が待っていた。彼は一言も発せず、歩き始めた。俺は後を追った。

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