第6話:ざわめき、そして静けさ
[2025.08.09]改行等の見た目の修正を実施。
火の塊はなおも形を保ち、空中をふらふらと漂っていた。まるで、次の標的を探しているかのように。
与作は息を切らしながら、パイプを構えたままその場に踏みとどまっていた。
一発は通じた。けれど、次も効くかはわからない。
そのときだった。
──雨が、降った。
音もなく、ぽつりと。一滴、また一滴と、冷たい水が頬を打つ。
空は曇っていない。雲もない。それなのに、まるで一点だけを狙うように、雨が降っていた。――与作の目の前、火の塊の上に。
水滴が落ちるたびに、火は弱々しくじゅうっと音を立てる。熱が押さえつけられ、輪郭がぼやけていく。
続けざまにもう二つ、火の像のようなものが別方向に現れる。今度は屋根の上と、店の奥の通路に。
だが、そこにもまた、突如として降る水が落ちてくる。音もなく、静かに──けれど確かに、炎の存在を消していった。
そして、最後に残った一体──与作が殴りかかった、最初のそれだけが、なおも空中を漂っていた。
弱々しく揺らいでいたその炎の前に、なにかが現れた。
──テニスボールほどの黒い球体。
空間の裂け目のようなものから、淡く揺らめく漆黒の影が現れ、その中心から細い腕のようなものが伸びていた。
それはまるで、人の手のように、そっと火を包み込む。
火が、揺らいだ。
抵抗するように暴れたが、炎はそのまま、音もなく呑み込まれた。
すると、黒い球体が白と虹色の光を発散し、火花も煙も残さず消えていった。
……静寂が、訪れた。
与作は呆然と立ち尽くしていた。その異様な光景が、現実なのかどうか判断がつかないまま。
──ふと、視線の先に、ひとりの少女が目についた。
人だかりの向こう、騒ぎとは無縁のように、まっすぐ立っている。黒髪が風もないのに揺れ、柔らかな服装が街並みに溶け込んでいる──はずなのに、彼女の周囲だけが、まるで別の空気に包まれていた。
ざわめきも炎の熱気も、彼女の周囲だけ静止しているような、不思議な隔たり。混乱の最中にも、彼女の表情だけはひどく静かで──
与作は、その雰囲気に見覚えがあるような気がした。
(……誰、だ?)
名前が出てこない。記憶の底に引っかかっている何か。だけど今は、その違和感だけが、与作の意識に残った。
まるで、今の出来事すら彼女の掌の上で起きたような──
そんな錯覚すら、与作は抱いていた。
【ムチソウ開発室 ー無知との遭遇 制作裏話ー】
某RPGの隠し部屋のごとく、本作の作成にあたって思いついたことをつらつらと書いていくコーナー、「ムチソウ開発室」です。
さて、本作最初の戦闘シーンが終結しました。
RPGにおける敵との遭遇って、ざっくり言うと「シンボルエンカウント」と「ランダムエンカウント」に分かれますよね。
シンボルエンカウントの場合、よく考えると狂暴な魔物がの敵がのうのうと歩いてる、っていうことになりますかね。結構シュールじゃない?
一方、ランダムエンカウントの場合、どこからどうやって敵が表れてくるのか、理屈は気になりますが、緊張感はありますね。加減が悪いとうっとおしくなりますが、、、
(自分、RPGってスーファミのものが一番プレイ時間長く、近代ハードのRPGにおける描写は不勉強です、、、こんなのもあるぜって方は、ぜひ教えてください)
今回の戦闘は、主人公が暴れてるモンスターのところに突っ込んでいく、という形式なので、ある種のシンボルエンカウントなのかなと思ってます。ランダムエンカウント的なシーンも今後取り扱う予定です。
こんな感じで、現代社会でRPGやっていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




