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第28話:理術戦闘、そして鎮魂の儀

「与作、エリアス。何が見える?」


 突如出現した岩の柱を焦りを感じさせる表情で見つめるエリアスと与作に対して、ソフィアは問いかけた。


「岩みたいな甲羅の亀と火のトカゲ!俺らを挟んでこっち見てる」

「岩の人型の……ゴーレムか。あとは火の……ダチョウ? 土地柄考えたらエミュだろうか」


 与作がエリアスをちらっと見て「やっぱ違うんだな」と呟いた。


「見え方はバラバラだけど……火と地の魔像が一体ずつってわけね」

「精霊が歌を忘れ自身を見失った姿……悪霊達だ」


 ウルマンは槍を握り、与作達の視線の反対方向――点在する火の先に立ちはだかった炎の中の影を睨む。

 右手に持った槍の石突を地に下ろして、ミリナが時子を見た。


「何とかする方法も分かる?」


 時子は――いつもと変わらない、平静とした表情だった。


「うん。そういうお仕事だから」


 時子からのその答えを受けて、ミリナはウルマンと顔を見合わせ、二人は無言で合意を図ったように同じタイミングでコクリと一度うなずいた。


「火の悪霊は私とミリナが引き受ける」

「そっちは任せるよ」


 ウルマンとミリナは炎の方向に間合いを詰めた。

 

「エリアス。あなたはミリナとウルマンのサポート入って。野生のベテランから学んでちょうだい。私も出来るフォローをする」


「あんた達にもう一方のは任せるわ。与作、ちゃんと実戦で経験値を積んでちょうだい。時子はまずはフォロー。危なくなったら全力で鎮圧して」


「「了解」」と、与作の力の入った声と、時子の静かな声が重なった。

 与作は「岩亀」を見据え、火の魔像との接触で少し焦げた袋からスルスルと刀を露わにした。そして、右手を柄に、左手を鞘に、抜刀した。


「すっげぇ硬そうな見た目してるけど、結局アレは理素の塊でしかないんだよな」


 鞘を地面に落として、左手も柄に移し、右足を前に踏み出し、中段の構えを取った。


「うん。硬そうってのも、人によって異なる見え方の一つだから」


 時子が左手半身を敵に向け、もう半身は与作に向けつつ、静かに答えた。


「だったら」


 腹の底から力を振り絞る。ぐるぐると捏ね回し、刀に乗せる。与作は意識を体内の力の流れに集中させた。心なしか、刀身の表面が空気と異なる異質な層を纏い、刃と大気の境目がぼんやりし始めたように見えた。――そして


「叩き切る!」


 与作はだッと敵に向かって駆け出した。


 ――敵までの距離七メートル


 岩亀の前に何かが凝集し始め、ぼんやりとした、オレンジ色の人魂のような球が三つ現れた。その一つがビュンと与作に向かって放たれた。

 左足で地面を弾きサイドステップの要領で回避――続いて二発目が飛んできた。あまりにも絶妙なタイミングで放たれたそれを避けるには、少し体勢を崩してでも地面を蹴り上げて身体を捌く他なかった。

 その結果、与作の体の重心の制御を失い始めた。そこへ隙を突くように、三つ目の球が飛んできた。崩れかける体勢を無理やり動かし、ギリギリ軌道を躱せるかというところで、与作は刀を振り上げ――


「おらぁッ!」――飛来する球に振り下ろした。


 刀が何かに触れる感触が手に伝わった。――しかし、刀が球を裂くことは無く、逆に刀身がそれに押し返される。その勢いが体に伝わり、与作はいよいよ完全に体の制御を失った。

 刀身に触れて若干軌道が逸れた球は、与作の脇腹を掠めた。


「くッ!」――ヒリヒリとした痛みが走ったのを感じたと同時に、与作は背中から地面に倒れた。


 ――再び生成された球が一つ、与作を目掛けて放たれた。


(避けられねえ!)


 被弾を覚悟した与作は上半身を起こし、右腕を盾にするべく、前に出した。


 ――風がふっと吹いた。迫る球は風にかき消されるように無くなった。


「考えなしに前に出過ぎたね」


 ざっと砂を踏む音が後ろに聞こえた。その方向に首を向けると、茶色のブーツとスカートの裾。時子がすぐ目の前に立っていた。

 岩柱を中心に核のように集まった地の理素から、再び理素の球が放たれる。

 時子が掌を広げたまま右手を前に突き出し、サッと払うように動かした。――その手の動きに合わせるように風が吹き、球は消えた。

 右手の掌を今度は地に向けるように手首を返した。その掌の向く先の地面に、風が集まり始めた。風は渦巻きながら砂を巻き上げ、小さな竜巻が出来上がった。

 時子が右手をサッと前に向かって払った。すると理素の核に向かってその竜巻は進んでいった。

 竜巻が理素の核にぶつかろうかという時に、核の周りの理素の層が厚くなり、風はかき消された。

 時子はその様子を見届けると、右手を下ろした。


「……困ったね。あの理素暴走、与作みたいな接近干渉じゃないと通用しないかも」


 *


 ソフィアはリュックからHMDゴーグルを取り出し、装着した。そして、右手でこめかみのあたりのボタンを長押しした。


[ SYSTEM BOOT SEQUENCE ]

 FORCECRAFT VISUAL ASSIST SYSTEM – INITIALIZING...

 > Calibrating optical sensors...

 > Initializing thermal vision module...

 > Initializing acoustic mapping module...


 視界に文字が浮かび上がり、文字が左から右に一文字ずつ描画され、一行分の文字列になると改行される。


 > Linking tactical database...

[ SYSTEM ONLINE ]


 少しの間をおいて最後の文字列が表示されると、宙に浮いた文字列達は消え、画面全体が暗い紫色の膜が貼られたような視界に切り替わった。そして、視界に映る熱源の温度に合わせた赤、黄、青のコントラストが描画された。――しかし、視界の大半は黄色く表示されていて、物の判別がつきづらい。


(やっぱり、昼の砂漠地帯でサーモグラフィーは使い物にならないか。地熱がノイズになってる)


 ソフィアが再びボタンを押すと、視界全体は暗くなり、音の反響に合わせて円型の波のようなイメージが描画された。透過処理が施されていて三人の人間の像、そして離れた地点の一点を中心とした波打つ円が表示されている。

 センサーは理素を感知しない。あくまで物理現象として発現した火の燃焼と、それによって生じる空気の揺らぎだけである。しかし、それを捉えることによって、理力を持たないソフィアは、与作の言うトカゲであり、エリアスの言うエミュがそこにいることを認識した。


(火の理素には熱感知がベターだけど、この状況じゃ音響探知でやむ無しね)


 ウルマンとミリナは歌のように何かを唱え始めた。すると、エリアスから見た「エミュ」の周りの火が揺らぎ始める。その火は中心から外側に向かって火の粉を飛ばしている。――わずかだが、火の勢いが小さくなり始めているように見えた。


「もしかして、理素を……削り取っている?」

 エミュが抵抗するかのように体を震わせると、火が渦巻くように火の玉となった。そして、それはミリナに向かって飛んできた。

 ウルマンが歌うのを止め、ミリナの前に出て、右手で火の玉を払った。

 敵はその隙を見逃さなかったようだった。自らを取り囲もうとする歌の力が半減したため、エミュは駆け出しミリナに炎を身にまといながら飛びかかってきた。

 ミリナは槍を握る手にひときわ力を込めながら歌を続け、ウルマンも再び歌を唱え始めた。

 加勢が間一髪間に合ったのか、見えない何かにいなされ、受け流されるように、炎は二人の前で裂けた。エミュは脇を掠めるように通り抜け、距離を取ったところで向き直り、再びこちらと対峙した。

 そこでウルマンは歌を止めた。火を払った腕の手首のあたりを抑え、苦悶の表情を浮かべていた。

 その様子を見たエリアスがウルマンに近づいた。


「失礼。火を払った腕を見せて」

「危険だぞ。鎮魂の術が無いのなら下がれ」


 エリアスは多少強引ながらもウルマンの手を取った。腕は赤く、エリアスが手を触れると、熱を持っているのが分かった。そして、やはり「何か」があるべき整合した状態から外れている。


「……やっぱり理素の火を受けたから、体内の理素循環が乱れたのか」


 乱れた「何か」を整えるように、自らの中からエネルギーのような「何か」を流し込む。そうすると触れた手が感じるウルマンの中の「何か」が少し動き始める。――違和感の無い配置が復元された。エリアスがそう思った時には、ウルマンの腕の赤みは正常な黒い肌の色に戻り、熱も引いていた。


「……まだ使い方を模索してるけど、これが僕にできることみたいでね」


 エリアスは静かに口元に笑みを浮かべ、しかし視線は力強くウルマンの眼に向かった。ウルマンが静かに頷いた。


「助かった。感謝する」


 再びウルマンは歌いはじめた。広い原野に響く、勇ましくも、ただ静かで、攻撃的というよりも、むしろ仲間に何かを呼びかけている。意味は分からないが、そんな雰囲気をエリアスは感じた。

 

(そうか、彼らにとっての鎮魂の儀が理素暴走を鎮める手段なんだ)


 自分自身には、体の外にある理素に干渉する術は無い。エリアスは、せめてもの手助けにならないかと思い、念を送るような思いで、ウルマンの背中に手を当てた。

 歌に呼応するように、力の流れが体内で勢いよく渦巻き、歯車がキッチリかみ合ったように早く回転するかの如く循環している。――手練れの理術とはこういうものなのかと、エリアスは静かに悟った。


◆◇◆あとがき◆◇◆

ムチソウ開発室 ― 無知との遭遇、制作裏話


ランダムエンカウント的にやっと始まったバトルシーンです。


ちょっと、ソフィアが使ったHMDゴーグルについて触れさせてください。


科学的アプローチを使ってなんとか、理素を視覚的に捕捉しようとFIONAが開発したのが、この支援兵装。理素そのものは現代科学で検知する術がないので、理素暴走が生じさせた発火や岩の生成など物理現象の残滓を補足して、理素暴走の輪郭を捉える、という科学の意地を見せたものとなっております。


……わたくし、「メトロイドプライム」という任天度のゲーム作品にドハマりした過去がありまして、主人公サムスが、熱感知、X線照射機能を持った戦術視野インターフェースを駆使して未知の惑星を探索するというFPS型探索アドベンチャーでした。(3作目まで出てて、近日、待望の4作目が出ます)


その、バイザー演出が好きすぎて誕生したのが、前述のゴーグルです。(我ながら単純)

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