第2話:学友、そして根性
講義棟の廊下を歩いていると、教室前のベンチに見慣れた姿が腰かけていた。
「おーい、エリアス!」
声をかけると、長身の青年―エリアス・フェルナーが顔を上げた。アッシュグレーの髪に、浅黒い肌。線の細い顔立ちと、柔和な笑みは、初対面でも警戒心を解かれそうな雰囲気を持っている。
年はほぼ一まわり上だが、与作にとっては、数少ない“まともに話せる”友人だった。与作が遅刻ギリギリで滑り込んだ入学初日の説明会で、隣の席に座っていた彼に声をかけたのがきっかけだ。
「ああ、与作。遅かったね。もうすぐ講義が始まるぞ。」
「なに読んでんだ?」
「『雲隠れ忍法帖』。これ、結構面白いんだ。どんな劣勢も根性で押し通しのは、強引だと思いつつ……熱くなるよね」
エリアスは軽く笑いながらページをめくる。画面の中では、額に傷を持つ少年忍者が、仲間を守るために敵に立ち向かっていた。
「いいチョイスじゃねえか。俺も読んでたよ。......根性か。お前、そういうの好きなんだな。」
「うん……なんというか、自分の内側から力を引き出す描写が、妙に気になる。理屈じゃない感じがして」
「へぇ……まあ、できるかもな、腹の底から根性振り絞ったら。」
与作の脳裏に、幼いころの修行の記憶がよぎる。父の怒号、冷たい朝の稽古場、そして呼吸を整え、剣を握る感覚。
「……お前、また変なこと言い出したな。」
「いつも通りだろ。」
二人は小さく笑い合い、そのまま講義室の中へ入っていった。
【2025.07.12追記】
雲隠れ忍法帖。
……そうです、NARUTOです。そのまま出しちゃおうかとも思ったんですが、ちょっとだけぼかしました。