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第17話:見解の一致、そして『普通』ではない状況

 ウルル・カタジュダ国立公園内の駐車場にソフィアは車を止めた。4人は車から降りると、視界の中に有無を言わさず飛び込んで存在感を発揮する、その巨大な一枚岩を望んだ。

「あれが、山ではなくて一つの岩だというのだから……驚きだよね」

 エリアスが思わず感想を漏らした。


「時子、理素の暴走兆候はある?」

 ソフィアは時子に目線を送った。

「……今は落ち着いてる。ただ、すごく濃い。理素の気配。ここ、本当に何かあるのかも……」

 時子は眼前の巨岩を見つめながらソフィアに答えた。


 ソフィアは車のトランクルームを開けて、自分の装備品を取り出した。

「与作、あんたも刀、持っていきな」

 取り出した両の掌くらい大きさの立方体のケースのようなものを開いた。中に入っていたのは手榴弾のような球状の物体が4つ。異常がないと分かると、ケースの蓋を静かに閉じ、ベルトのアタッチメントに装着した。

「こんな観光地で大丈夫か? 普通に人、結構いるぜ?」

 与作はあたりを見渡してみた。週末ということもあってか、自分たち以外の車も数台は同じ駐車場に停まっている。奥に続いている遊歩道へ向かっていく人も多い。

「大丈夫よ。なんとかなるように、ちゃんと世の中作ってあるのよ」

 首にぶら下げたUN-DERTのパスをヒラヒラさせてソフィアは笑った。


 現在地の駐車場にウルルの登山道入口がある。しかし、「立ち入り禁止」の表示が掲げられており、封鎖されていた。

「正規の観光ルートで、近づけるだけ近づいて、様子見るわよ」

 ソフィアの指揮に従って、一同はマラ・ウォークと案内のある遊歩道に歩みを進めた。


 道の両脇には緑が生えているが、足元は赤土になっている。右手に生えている草のすぐ先からは、岩の斜面が空へ向かって伸び始めている。目線を上に置けば、聳え立つ巨大岩の側面が常に見える。見えるはずもないのに、思わずその上を見ようとして首を上に向けてしまう。オーストラリアの広大な蒼い空が、錆色の岩塊に切り取られている。

「……なんか、首痛くなってきた」と与作がこぼす。

「ちゃんと、前見て歩きなさい。転ぶわよ」ソフィアがたしなめる。


 三十分ちょっと歩くと、乾いた空気の中にほんの少し水の気配が混じり始めた。巨大岩の足元に水が溜まっている。「遊泳禁止」の看板が立っていた。おそらく、雨天時に水が流れていたであろう岩肌は、周りの赤色と比べて、黒ずんでいる。


「時子、何か感じる?」

 ソフィアは、一番後ろを歩いていた時子の方を振り返った。

「ここ、すごく地の理素の気配が強い。こんなに強いのは初めて……。でも、すごく安定してて、暴走するような過密じゃない」

 時子は3人の前に出て立ち止まると、岩肌の側面をなぞるようにして目線を上に、空を見上げた。


「この上に……何かがある」


 与作が首の後ろの筋肉を指でもみほぐしながら口を挟んだ。

「俺、さっきから妙にこの上が気になってたんだけど、やっぱこれ、理素が関係してんの?」

「実は、僕も気になってたんだ。歩かなきゃいけないし、見上げこそしなかったけど……」

 エリアスも続いて自白した。


「……なるほど。理術士3人が口を揃えて、この巨大な岩の上に何かがあると言ってる。これは明らかに『普通』じゃないわね」


「グッダイ! 皆さん、ちょっと割り込み失礼するよ」

 空を見上げる4人の背後から、声を掛ける者が現れた。与作は首を戻し、その声の主の姿を認めると、腹の底が冷えるような感覚を覚えた。

 他の観光客と比べて明らかに浮いた服装の恰幅のいい男二人組だった。二人揃って同じ格好をしている。


 ――警察官だ。


 与作は、思わず肩に担いでいた黒い袋を背中に隠した。

「……お兄さん、悪いんだけどさ、今隠したその黒い袋に入った棒、俺たちに見せてもらえないかね」

「あー、これは……」

 目線を泳がせつつ、ソフィアの方を見やった。ソフィアは、ふぅと一息吐くと、胸元に手を伸ばして、内ポケットに刺さっていた、プラスチックのカバーに覆われた長方形のIDカードを取り出して、警官二人に示した。

「お仕事ご苦労さま。アンダート災害調査官のソフィア・オドネルです。本件はアンダート条約10条事案です。本邦での特殊災害に関する銃刀法の適用除外特別法の研修はもちろん受けていらっしゃいますよね?」

 与作に声を掛けた方とは別の警官が無線でやり取りをしている。無線から聞こえる音声に反応して「マジかよ」と呟いた。

「そちらの本部に照会いただいても構いません。多分、何かしら通達が入ってるかと思いますが……」

 ソフィアは念押しのつもりで一言添えた。

 後ろで無線を使っていた警察官は、もう一人の声を掛けてきた方の肩をたたき、首を振りながら言った。

「……お姉さんの言う通りだ、相棒。国連調査官の現地入り通達が来てる」

「……失礼した、オドネル調査官。もちろん、適用除外法は認識している。ただまぁ……こんなのいつ使うんだと思っていたので、正直驚いたがね」

「よく言われるわ。10条事案って報告上げてくれれば、お互い面倒無いはずだからよろしくね。迷惑はかけないわ」


 二人の警官は来た道を引き返していった。


「……あ、焦ったぁ〜」

 与作は、深く息を吐き出した。無意識に、呼吸が止まっていたことに気づいた。

「言ったでしょ、世の中ちゃんと出来てるのよ」

 そう言いながら、ソフィアはバシッと与作の背中をたたき「あいたっ」と与作は小さく悲鳴を上げた。


ムチソウ開発室ー無知との遭遇、制作裏話


RPGといえば、やっぱり剣と魔法ですよね。

でも、現代社会でRPGをやろうとすると、まず立ちはだかるのが――「法律」です。


現代社会で剣を持って歩こうものなら、普通は銃刀法に引っかかります。

これを回避するには大きく分けて、


A) 政府や司法が退廃している世界観にする

B) 刀を持つ人物を超法規的存在として扱う

C) ご都合主義で法律は無視して触れない


……あたりになるでしょう。


本作はできるだけ現実社会をリアルに描きたい、という目標があるので、B案を採用。

しかも、ただの「ご都合」ではなく、きちんとリアリティを持たせるため、

「アンダート条約(国際法)→ 銃刀法の適用除外特別法(国内法)」という二段構えの設定にしました。


国際条約は、各国が批准し、国内法を整備して初めて実効性を持ちます。

条約だけでは強制力はなく、あくまで国内法に落ちてこそ力を発揮する。

だからソフィアのセリフでは、わざわざ国際法と国内法の両方を出してあるわけです。


細かいでしょ? 頑張りました。これが4年分の学費の成果です。

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