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第15話:偽りの名前、そして異国の空気

[2025.08.11]内容の修正。マニラの描写を夕方→夜に変更。

ゴォォ……という低く唸るようなエンジン音が、機内に響いていた。


 前方席、窓際に座った与作は、顔をしかめながら背もたれに寄りかかる。

 隣のエリアスが、ややいたずらっぽく笑った。

「初めての空の旅は、どうだい?陽介(ようすけ)くん」

 与作は眉をひそめ、じろりと睨み返す。

「……やめろや、その名前で呼ぶの」

「ふふ。けっこう似合ってると思うけどね」

 からかい半分の声に、与作は不服そうに唇を尖らせた。


 ——遡ること、数時間前。


 埼玉県、入間航空自衛隊基地。4人の旅立ちは、UN-DERTの災害調査チームを装い、自衛隊の要人輸送機で出国するという形が整えられていた。

 滑走路の片隅、輸送機のハッチの前で、ソフィアが与作にパスポートを手渡す。

「はい、あんたの旅券」

「へぇ……パスポートって、初めてだけど。こんな緑だったか?」

「それ、公用旅券。国の任務で使うやつよ。一般の赤とか青とは違うの」

 中を開いていた与作が、眉をひそめる。

「って、オイ……名前が違ってんぞ、誰だよ『日野陽介』って」

「ああ、それ。あんたの本名、そのまま使うと、組織の派閥に目つけられるのよ。木戸久作の息子ってだけで、面倒な連中が湧くの。だから偽装してある。」

 ソフィアはさらりと言い放ち、肩をすくめた。

「一応、似たような音の名前にはしておいたのよ?軍事ルートで移動するから、空港の検問はスルーできる。でも取り扱い注意よ」

「うっかり偽装だってバレたら?」

「その時は……逃げて。あんたが時間稼いでるうちに、こっちで処理する」

 軽く言ってのけるその様子に、与作は思わず息を呑んだ。


 ——そういった経緯があり、エリアスは与作を陽介と呼んでからかっていた。


不服そうな表情をしてエリアスを睨んでいる与作のもとに、ソフィアが機内の後ろの方からやってきた。

「空の旅は満喫してるかしら? 日野陽介さん」

「……やっぱ、面白がってるだろ、あんた」

「悪かったわよ。でも、フィオナのリソースなしで旅になんて出られないわ。我慢してちょうだい」

「……ったく、わかったよ」

 観念したように溜め息をついた与作を、エリアスが静かに笑って見守っていた。


「そういや理術士って、皆、上崎みたいにポンと火出せるのか?」

 ぽつりと与作が問うと、ソフィアはすぐに首を横に振った。

「無理無理。時子はフィオナのなかでも異常値よ。普通、あんな火、出すだけで二人がかり三人がかり」

「……マジかよ」

「欧米の鎮圧部隊がスカウトしようとしてたけど、あんたの見張りの件もあって、私がうまく誤魔化して日本に駐留させてた。」

 やや得意げに言うソフィアを、与作は眉をひそめて見た。

「見張ってたのって、クソ親父のノートの件のせいなのか」

「正解。先生から私と時子宛てに、あんたと会えってメモが来た。あのノートと一緒にね」

ソフィアは表情を曇らせながら話をつづけた・

「でも、不用意に木戸久作の息子に接触すると、勘のいい軍閥派に睨まれるのよ。

機会を伺ってたら、あんたが、この前の火事場の飛び込んだから建前が立った。保護対象。運が良かったのよね」

 与作は何も言わず、しばらく黙り込んだ。


「上崎さんが特殊な例ってのは分かったけど、……理力って、訓練で伸びるのかい?」

 今度はエリアスの問いを割り込ませた。

「……基本的には先天的な要素が大きいってのが定説ね。まぁ訓練の成果が全くない、というわけではないけど。おかげで人材確保は厳しいわ」

 やれやれ、といった口調でソフィアは答えた。


 そのまま、機体はマニラに着陸した。補給のための、わずか二時間の滞在予定だ。観光とか出来ないからねとソフィアに念を押されるも、与作は一瞬だけ外に出て、南国の湿った空気を吸い込む。

 夜の暗がりの中、照明に照らされるヤシの影と、ぼんやりとした街の匂いが、少しだけ遠く感じた。

 ほとんどを地元の長野で過ごしていた与作にとっては、初めての異国の空気であり、なんだか感慨深いものに感じられた。


 ——再び機体は空に戻った。


 与作は後方の時子の席に近づいた。ソフィアがトイレに立ち、席を外していた。

「なぁ、上崎……ちょっと聞いてもいいか」

 時子が振り向き、微笑んだ。

「いいよ。でも、時子って呼んでくれる? あなたに“上崎”って言われると、なんだか分からないけど落ち着かないの。私も与作って呼ぶから」

 与作はとても不思議に思ったが、別に断るような理由もなかった。

「……ああ、いいけど」

 少し戸惑いながらも、与作は続ける。

「あんた、長野に親戚とかいたりするか?」

「どうして?」

「いや……あんた、俺の知り合いに似てるんだ。俺の地元、そこなんだけど」


 時子は、ふと目を伏せて、間を置いた。


「……正直、分からない。物心ついた時には、養子みたいな形で育てられてた。実の親は、知らないの」

「そっか、悪い。変なこと聞いた」

「別にいいよ」

 そう返した時子の横顔に、与作はふと目を留める。

 (……なんでなんだか、こいつ、母さんに……似てる気がする)

 

その時、ソフィアが戻ってきた。

「お、日野くん、ちゃんと座ってなさいよ」

「はいはい」

 へらりと笑って与作は席に戻る。


4人を乗せた輸送機はオーストラリアの大地を目指して、太平洋の夜を滑っていた。



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