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第12話:変人、そして異端

会議室に、ひときわ深い沈黙が落ちた。


 その空気を破ったのは、ソフィアの静かな声だった。


「……これまでお話しした“理素理論”は、私たちフィオナが現在採用している仮説体系です。科学的に完全な証明があるわけではありませんが、数々の実地観測と突き合わせた結果、最も整合的なモデルとして運用されています」


エリアスが言った。

「ここまでの説明を聞く限り、かなりの観測データと照合されているように感じます。なぜ、公には議論されていないのですか?理素に明るくない人への理素災害の予防啓発などにも活用できそうなものなのに……」


ソフィアは、エリアスの問いに整然と応じた。

「理素は、科学的に実証できない──けれど、確かに“脅威”として現実に存在している。これが、私たちが直面している最大の問題です。

科学で説明できない脅威が存在するという事実は、それだけで社会を、予測不能な混乱とパニックに陥れかねない」


そう言って、ソフィアは小さく息を吐き、続けた。

「だからこそ、科学を基盤とする文明秩序を維持するために、フィオナは理素災害の調査・鎮圧に加え、関連情報の秘匿・制御も担ってきました。

それが、“アンダート”という表の顔を掲げつつ、私たちが水面下に存在している理由なのです」


与作が、なるほどといった調子で口を開いた。

「そりゃあ、科学的に分からん火事が頻発してます!なんて、言われた日にゃ、おちおち夜もぐっすり寝られねえわ……。まいったな、エリアス、俺たち今日から不眠まっしぐらだぜ」


与作はエリアスに目線を送りながら、不安をごまかすように軽口をたたいた。

「つーか、理素理論ってのも、最初に誰が言い出したか知らねえが、よっぽど頭のイカれた奴だったんじゃねえの?やれ、気を体に巡らせろ!だの、気合で全部乗り越えろ!とかいってた、うちのクソ親父ばりに、変人の香りがするぜ」


ソフィアが、静かに息を吐いて、口を開いた。

「……実際、そうなんですよ」

「はっ、やっぱり変人がぶち上げたって話なのか、変な奴はどこにでも……」


ソフィアは与作の言葉を遮るようにつづけた。

「理素理論の提唱者は……木戸久作博士。つまり、あなたの父親です」


 与作の表情が凍りついた。


 まるで不意に殴られたかのように、肩が跳ね、瞳が揺れる。

「……は?」


 エリアスも一瞬だけ視線を動かしたが、声は出さなかった。


「博士はかつて、世界各地の神話や伝承を調査して回っていた民俗学者でした。けれど、その中で奇妙な共通点に気づいたのです。――異常気象、発火、幻視、自然現象にそぐわぬ災厄……そういった“説明不能な災害”の背後に、共通して現れる構造があると」


 ソフィアは背筋を伸ばしたまま、続けた。

「彼はそれらの現象を“理素災害”と定義し、理素という新しい視座をもって再構成する仮説を構築しました。そして、その理論を用いて、初めて“理素災害を予測・解析・対応できる枠組み”を示したのです」


 与作の喉が動いた。だが、言葉にはならなかった。


「以来、フィオナは博士の提唱した理論をもとに、世界中で理素事象の観測と対応を行ってきました」


「……クソ親父が?」

与作が絞り出すように言った。


「あいつ、ただの民俗学者だったんだぞ……?」


ソフィアは落ち着いた様子で、答えた。

「ええ。私も最初はそう聞いていました。けれど、彼の目は、伝承、そして現実の災害の向こうにある“構造”を見ていた。民俗学者だからこそ編み出せた仮説であったとも言えます」


ソフィアは補足をつづけた。

「今でこそ、フィオナは各国政府も秘密裏に関与する、国際的諜報機関になっています。しかし、その前身は、博士をはじめとする災害伝承を研究する民俗学、考古学などの人文科学者の学術ネットワークだったと聞いています。」


ソフィアは時子に目線を送りながら言った。

「おかげで、軍閥派だの、学術派だの、内部対立がメンドくさいったらありゃしない……そう、思わない?」

時子は、愚痴をこぼすソフィアの疲れたような顔を見ながら静かに微笑んだ。


 与作は視線を逸らし、眉間に皺を寄せながら、頭を掻きむしっている。

「クソ、とんでも理論を見せつけられたと思ったら、それがあのクソ親父の理論とか……変な夢でも見てる気分だぜ……」


 そのとき、ソフィアはゆっくりと書類ケースを開いた。

「ここからの話は、この場限りでお願います。たとえフィオナの人間であったとしても、秘匿してください」


 中から、一冊のノートを取り出す。よくある大学ノートだった。

「これを、博士があなたに託してほしいと彼独自の秘密裏のルートで私に寄越してきました」


 机に置かれたそれを、与作はまじまじと見つめた。


 懐かしい、そして腹立たしい、あの文字が表紙に記されていた。

「K.Kido」――木戸久作。


長い解説編にお続きあいいただきありがとうございます。


ひとしきり説明したいことが書けたので

いよいよ話を動かせます。


引き続きどうぞよろしくお願いします。

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