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第11話:残る疑問、そして力の正体

誰からともなく、ふと沈黙が落ちた。


 だが次の瞬間、与作が低く呟いた。

「……あの黒い球体、見たか?」

 その声には、火とは異質な何かを目にした者の、底冷えするような恐怖が滲んでいた。


 エリアスもうなずく。

「ああ。僕の視界の端にもあった。……吸い込まれるような、黒」


 その言葉に、ソフィアと時子が同時に表情を引き締める。

 時子はゆっくりと言葉を選びながら、静かに語り出した。

「……正直に言うと、私には、あれが何かは“判断できません”。ただ……感じました。あの場にあったものが、尋常でないものだったことは確かです」


 与作が眉をひそめた。

「理素とは……違うのか?」


 時子は目を伏せ、ほんのわずかに首を横に振る。

「なんとも言えない、というところです。──あれは、もっと根本的な現象のように感じました」


 エリアスが息を呑む。

「それって、“火”の問題じゃないってこと?」

「地も、水も、風も。あらゆる理素の流れが、あの一点に向かって……落ちていくようだった」

 その時子の言葉には、抑えきれない緊張のようなものがにじんでいた。


 ソフィアが前へ出て、机に手をつく。

「フィオナでも、その現象の正体は未解明です。ただ、過去の観測記録から、“理素暴走状態が継続し、理素の均衡が崩れたときに発生する集束現象”という見解があります」


エリアスが問い返した。

「集束……?」


ソフィアはゆっくりと頷き、言葉をつづけた。

「四理素──地・水・火・風。これらのバランスが限界を超えたとき、自然界は“均す”ように反応する。……帳尻を合わせる、と言い換えてもいいかもしれません」

 彼女の顔が険しくなる。

「そして、あの球体は理素だけでなく、物理現象にも干渉し、接触したものを“消滅”させてしまうことがあります。──まるで、局所的なブラックホールが発生しているかのように」


一瞬、空気が固まる。


 だがソフィアは、次の瞬間にはわずかに表情を緩め、補足する。

「……ただ、今回に限っていえば、現象の規模は極めて小さく、物的な損壊は確認されていません。火の理素暴走が、すでにほぼ鎮圧されていた影響かもしれませんね」


 与作が、じり、と椅子を引いた。

「それが……あの球体か?」

 時子が静かに頷く。

「ええ。“理素の自動調整”が、一瞬だけ、形を取ったのかもしれません。──けれど、私たちが扱う理素理論では、とても説明がつかない」


 言葉の最後に、かすかな戸惑いが混じった。


「……火を起こすことも、水を動かすことも、暴走している理素に立ち向かうことも、私たちは“関係”の中で行います。でも──あれには、どんな関係も通じなかった。ただ、そこに在って……ただ、引き寄せていた」


 その場に、ふと冷気が差し込んだかのように、会議室の空気が張りつめた沈黙に包まれた。


 その沈黙のなかで、与作がふとつぶやいた。

「……じゃあ、俺の一撃が火の鳥……魔像って言ったっけ、アレに通じたのは、なんでだ?」


 その声には、いまだ拭えぬ疑念と、どこか自分自身への困惑が滲んでいた。

「確かに手応えはあったんだ。あのとき、俺の鉄パイプが……何かをぶっ叩いた感触があった。なのに、映像には何も映ってなかった。……ありゃ何だったんだよ」


 時子は少し考えてから口を開いた。

「不思議ね……でも、可能性はあります」


 与作の視線が彼女に向けられる。

「もしかしたら、あの瞬間だけ――あなたの“理力”が、武器に宿っていたのかもしれません」

「俺の、理力……?」


 時子はゆっくりと顔を上げ、与作に問いかける。

「手応えを得る前、あなたは……何か、特別なことをしましたか?」

 

 与作はしばし考え、思い出すように答えた。

「気合を入れ直したな......一回パイプで殴ろうとしたけど手応えなくて、そんなバカなって思いながら……もう一回当てるために体の底から……気合振り絞って、パイプに乗っけるような感じで......」


その言葉に、時子の瞳がかすかに見開かれる。

「……やっぱり」

彼女は、腑に落ちたように静かに言葉を重ねる。

「あなたが“気合”として捉えていたもの……それが、あなた自身の“理力”だったのかもしれません。

 理力は、意志と共鳴し、流れに乗ります。あなたの中の理力が、武器に伝わって、理素に干渉した。そう考えれば──“理素に触れた”説明もつく」

 与作は眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。


 代わりにエリアスが、思い出すように口を開く。

「……あの、火傷のことなんですが」


 ソフィアと時子が振り向く。

「昨日、あの場で治療した負傷者……あの火傷は、通常の熱傷とは違っていました。皮膚の損傷は深くないのに、炎症反応が異常に強い。しかも……僕が触れた瞬間、体内のどこかにズレがあるような、妙な違和感を感じたんです」


 ソフィアが静かに頷いた。

「理素による火傷は、“肉体”だけではなく、内側の“流れ”そのものに干渉します。理力を帯びた火は、皮膚や神経に直接作用するだけでなく、内在する理素バランスも乱す、そう解釈されています」

「だから……普通の応急処置だけじゃ、意味がない?」

「ええ。逆にいえば、理素の“乱れ”を読み取れる人間が対処すれば、治癒を早めることも可能です」


 エリアスはわずかに息を呑んだ。何かが、彼の中でつながっていく気配があった。

「……そうか。あのとき感じた“流れの歪み”、あれが……」


 与作が顔をしかめて言った。

「なんだよ、それ……医者の直感で、理力まで視えるってのか?」

 ソフィアはわずかに首を振る。

「正確には“感応”です。“視える”、というより、“感じる”。それが理術士に求められる第一歩なんです」


 彼女は、少しだけ間を置いてから続けた。

「たとえば、肌にまとわりつく湿気の違和感、あるいは耳鳴りのような圧迫感。理素の“流れ”に変化が起きると、それに気づける人間がいる。目に見えずとも、確かにそこにある――それを“感応”と呼んでいます」


 ソフィアが机越しに、ふたりを見つめた。

「魔像が見えた時点で、あなたたちも、“理術士”の資質を持っている、ということになります」


 そこでひと呼吸おいて、ソフィアは続けた。

「……ちなみに、私は“理術士”ではありません」


 与作とエリアスが、わずかに目を向ける。

「理力を持たないため、魔像を見ることも、理素の流れを感じ取ることもできません。ですが、私はフィオナの特別捜査官として、各地の理素災害現場に出向き、初動対応と実地調査を担ってきました」


 彼女は一呼吸おいて、続ける。

「理術士たちの“目”と“感応”を頼りにしながら、どう動くかを判断する。言うなれば私は、“理力を持たない者の立場から、理素と世界を読み解く”役割を担っています」


 その声には、確かな実戦経験に裏打ちされた説得力があった。


ムチソウ開発室ー無知との遭遇、製作裏話


主人公、与作が初めて遭遇した理素の暴走から生じた理素魔像。彼は、その辺に転がってた鉄パイプと気合で、その魔像を無謀にもしばき倒そうとしました。

撃退には至らずも、一発お見舞いしたという結果でした。


なんで、そんな事が出来たのか?

を説明しようとしたのが今話の目的の1つです。


「気合を絞り出して武器に乗せて叩く」

自分は、これを「練気術」と名付けました。


本編では使わず、あくまであとがきとかメタ的な場でのネーミングで使いたいと思います。

(いちいち技の名前を叫ばないのが個人的な美学です)


自分が知る限りだと、スクエア・エニックス発の3DSの名作『ブレイブリーデフォルト』のモンクが「練気」というバフコマンドを使えましたよね。東洋武道思想感があって気に入ってます。

(プレイ当時、既に「練気術」という妄想があった状態だったもので、勝手に運命を感じていました。)


ちなみに、シリーズ作のブレイブリーセカンド、ブレイブリーデフォルトⅡもプレイ済みです。


Switch2で初代BDが移植されますよね。

抽選販売、当たらねーかなー

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