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第9話:正体、そして苛立ち

[2025.08.10]改行等の修正を実施。

翌日、午後。


 夜の訪問者、ソフィア・オドネルの言葉通り、あっさり退院が許可された。

 与作とエリアスは、その足で彼女のもとへ向かう。


 ――東京・港区にあるUN-DERT日本支部。


 外見はごく普通のオフィスビルだが、その地下には、限られた者しか入れない秘密区画が存在していた。

 ソフィアに案内され、与作とエリアスはその奥にある小さな会議室へと通された。防音処理が施された無機質な壁。窓もなく、閉塞感が漂う。だがその中に、なぜか舞台裏にいるような“現実の裏側”を覗いたような感覚もあった。


「……どうぞ、座ってください」

 ソフィアは慣れた様子で部屋の端に立ち、リモコンでスクリーンを降ろす。与作とエリアスは、互いに視線を交わしながらも、無言で着席した。


「本題に入ります」

 ソフィアの声が一段低くなる。

「昨日の火災現場での異常現象についてですが、あれは“理素”という未知のエネルギーによる現象でした。そして私たちの本来の任務は、こうした理素の暴走──いわば“理素災害”への初動対応と鎮圧です」

「理素?なんだそりゃ、元素じゃねえの?」与作は疑問を漏らした。

 壁のスクリーンに、昨日の現場の空撮映像が映し出された。不規則な動きで広がる炎、ホースで水を撒く消防隊、逃げ惑う学生たち。そして──その中で、鉄パイプを構えた男がひとり、煙の中に突っ込んでいく姿。

 与作だった。

 だがそこには、あの“鳥の姿”も“狼の影”も映っていなかった。ただ、彼が何かと戦っているように鉄パイプを振り回しているだけだ。

「火の鳥、なんで映ってねえんだ……」

 与作が呟いた。

 エリアスも険しい表情で画面を見つめる。

「やっぱり……幻覚ってわけじゃないんですね」

「そうです」

 ソフィアは頷いた。

「この現象──私たちは“理素魔像”と呼んでいます。通常の光学機器には映りません。なぜなら、これは物理的な存在ではなく、精神と理素の“波長共鳴”によって知覚されるものだからです」

「波長共鳴?」

「見る者の精神状態、あるいは内在する力によって、魔像の“像”は異なって見える。木戸さんには“鳥”に、フェルナーさんには“狼”に見えた。これは視覚ではなく、理素との干渉で“像を形成する”認知現象なのです」

 エリアスが眉をひそめる。

「……じゃあ、あれは“実体”じゃない?」

「物理的な実体は確認されていません。ただし、“ある種の力”を持つ者の認識に干渉し、像として成立する現象です。実在しないとは断言できません」

与作はスクリーンから目を離し、机に肘をついてつぶやいた。

「でも……確かに、手応えはあったんだ。あのとき、俺は……」


 そのとき、ドアがノックもなく開いた。

 入ってきたのは、すらりとした少女だった。黒髪を後ろで結い、スーツをまとっている。だが、その眼差しにはどこか、年齢にそぐわぬ冷静さと鋭さが宿っていた。

「ごめんなさい、遅くなりました」少女は言った。

「ご苦労。急な呼び出しで悪かったわね」ソフィアは返した。


 少女は与作見て言葉を発した。

「──昨日、いたでしょ」

 その声に、与作はピクリと肩を揺らす。

 彼女は微笑んだ。

「火の中で、鉄パイプを振り回してた人。……私、見てたよ」

「……!」

 与作の目が一瞬、揺れた。

 現場の中で独り動じず、ずっとこちらを見ていた、あの女学生だった。


 会議室の空気が、ふと変わった。

 新たに現れた少女は、ソフィアの横に着席した。

「彼女は、上崎時子かんざきときこ。我々、理力情報監察統合局りりょくじょうほうかんさつとうごうきょくFIONAフィオナの理力執行官です。」

「なんだ、そのフィオナとか理力とかって。あんたアンダートって国連団体の人だったじゃねえか」与作は噛みつく。 

 ソフィアは淡々とした口調で答えた。

「アンダートは表向きの看板です。フィオナは理素災害対策を担う国際的な秘密組織で、これこそが実の正体です。理素現象は通常の科学で説明不能の事象のため、秘密裏に対応を行っています。」

「はあ? 秘密組織? 科学で説明できねえ? なんだそりゃ、オカルトか?」

 与作は椅子から身を乗り出して声を荒げた。

「俺は火の中で“何か”を見た。それは事実だ。でも、“理素”だの“魔像”だの……勝手に名前つけて納得してんじゃねぇよ。俺たちは、騙されてるんじゃないのか?」

 ソフィアは表情を変えず、冷静に返す。

「疑うのは当然です。けれど、あなたが見たものは、科学では説明できない現象でした。私たちフィオナは、それらを仮説体系として整理し、“理素理論”という枠組みで扱っています」

 与作は舌打ちしながら背もたれに深く沈んだ。

 沈黙を破ったのは、エリアスだった。

「……僕はドイツで臨床医をしていました。だから、非科学的な話には懐疑的です」

 エリアスは手のひらを見つめながら続けた。

「でも……昨日のあの消防士の火傷。通常の熱傷では説明がつかない治り方でした。僕が患者に触れたとき、何かが“流れた”……あれが、その理素というエネルギーと関係しているなら、否定はできない」

 与作がちらりとエリアスを見る。

「お前……信じるのか?」

「信じるというより、“受け入れる理由”がある。それだけだよ。」

 室内には、しばしの沈黙が流れた。

ムチソウ開発室 ー 無知との遭遇 制作裏話


本作のコア概念、「理素理論」の解説編が始まりました。

RPGにおける「魔物って何?」を、現実世界の理屈に落とし込むために生まれたのが──この「理素魔像」という考え方です。


“見る人によって姿が違う”という性質は、どこかクトゥルフ神話的でもあります。

一見、X-FILE風味な展開ですが、ご安心を。ここからちゃんとRPGに向かっていきます。


次回はこの流れで、「魔法とは何か?」に踏み込みます。

よければご一緒に、理屈で冒険する物語を楽しんでください。

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