蜘蛛娘の罰
蜘蛛の糸に捕らわれた私は、彼女たちに大切に扱われた。
食事も水も、十分に与えてもらえる。
けど同時に与えられる気持ちよさに、私は限界に達そうとしていた。
このままじゃ駄目だ。
優しさの皮を被った重い愛情に、ずっと縛られたままなんて。
彼女たちの言葉は甘く、触れ方は優しい。
でも、このままここにいたら。
きっと、私は人間ではなくなる。
夜が更けたころ合い。
静かな時間、みんなが眠っているかのように見えたタイミングを見計らい。
背中に絡みついた糸の一部に指を伸ばす。
するり。
わずかに緩む感触。
これなら糸から逃れることが出来るかも。
「いける」
心が跳ねた。希望が見えた気がした。
私はそっと、もう一本の糸にも指をかける。
しかし。
「……逃げようとしたの?」
背後から、囁き声。
振り返るより先に、唇を塞がれる。
「んっ……!」
一人目。
続いて、二人目が横から。
そして、三人目が首筋へ、四人目が額に。
気づけば、私は次々とキスされる状態にあった。
逃げようとした代償。
私は彼女たちにょって、「罰」を与えられる。
「ずるいなぁ……」
「そんなに一人でどこか行きたかったの……?」
その声は哀しみではなく、蕩けるような熱。
唇が吸いついて離れたとき、唇から唾液が落ちる感覚があった。
それが鎖骨のあたりに伝い、服の上から濡れ広がる。
「罰として、もうちょっと甘やかさせてね」
「いい子にしてたら、すぐ終わるから……ね?」
優しくて、怖い。
頭を撫でられた。
キスされながら髪を撫でられると気持ちがいい。
そんな事を想っている場合ではないのに。
脳が混乱して「安堵感」を覚えてしまう。
前からも後ろからも、唇が降ってきて。
数え切れない感触に押し包まれて、抵抗することすらできなくなった。
「ん……ふ、は……あ……」
吐息と一緒に漏れた音すら、誰かの口に飲み込まれる。
ここに来て、私の身体は、濡れている。
自らの汗じゃない。
水でも、涙でもない。
キスのせいで、全身は何時も濡れている。
肌に張りつく粘膜、髪に残る香り、指先に絡みついた唾液の糸。
どこもかしこも、彼女たちの「罰」の名残。
「……もう、逃げようなんて考えちゃ、だめだよ?」
「また罰しないといけなくなるから」
「罰が欲しいなら、別だけど
また、一つ唇が落ちてきた。
私はただ、目を閉じることしかできなかった。