冷静さを失いつつある
最初は、なんとか言葉にできた。
「ちょっと落ち着こうか」とか、「距離が近いよ」とか、いつもの調子で。
でも、今はもう何も言えなかった。
「待っ──、ちょ、そこ、ひゃっ……!」
全身に降りかかる「友情」の嵐。
誰の手がどこを触れているのか、もう把握できない。
柔らかい指、力強い腕、頬を這う舌、耳元にかかる熱い吐息。
制服のボタンがいくつか飛び、服がはだける。
誰かが「ごめん、でも我慢できなくて……!」とか言っていた気がする。
その瞬間、背筋に冷たいものが這った。
いや、違う。舌が這う感覚だった。
「ぅわ、わ……そ、それ、やりすぎじゃ……!」
喉まで出かかるツッコミは、喉で渋滞した。
代わりに、肩口を包み込む温もりが、私の言葉を溶かしていった。
気づけば、素肌に汗の玉が浮かんでいた。
それが誰のものか、もうわからない。
たぶん、私のも、みんなのも、全部混ざってる。
どこかの指が、足の裏をなぞり、別の誰かの手が髪を撫で、
その間に、何本もの舌が、耳や首や鎖骨のあたりを彷徨う。
きっと、おそらく。
私の身体で、彼女たちの指が触れなかった個所はない。
脳内の整理が追いつかない。
触れられすぎて「身体の境界」が曖昧になってきた気すらした。
「この手は、私の?それとも」
自分の手がどこにあるのか、もう不明。
ぬめる感触が服の中を流れ込み、髪の先まで粘液まみれ。
私の意思は、彼女たちの「友情」の中で、曖昧になっていった。