私がいる以上、主様のえろいシーンを見れると思うな!
「……すごいエモいシーンを観れた」
物陰からひっそりと見守っていた私は、
地獄とは思えぬほどの感動に包まれていた。
蜘蛛、スライム、衆合娘たち。
様々な存在が力を合わせて、あの巨大な龍・黒縄龍を倒したのだ。
もう拍手しかない。思わずパチパチしていた。
でも一番すごかったのは、やっぱり。
「……モブ子ちゃんだよねぇ」
だって、あの子、地平線まで届く龍を一刀両断してたんだよ?
しかも叫びが良かった。
「欲望が相手を罰する力となる!」
いやカッコ良すぎか。
私の中のテンションが、最高潮になった。
こんな超展開、読者でも震えるやつ。
私は駆け寄った。言葉をかけるために。
でも、そこでふと、気づく。
「え?モブ子ちゃんの欲望ってあんな龍をぶった切るほど凄いの?」
視線を向けた先、そこには真っ二つになった黒縄龍の死骸。
切断面が、地平線まで続いていた。
凄い破壊力だ。
切断力というべきか。
これは全て欲望から変換された力なワケで。
この欲望が、誰に向けられてるかって言うと。
まあ、多分私なわけで。
「主様、やりましたよ」
「ち、近づかないで!!」
ちょっとモブ子ちゃんが怖くなっても、仕方ないと思う。
その後。
蜘蛛娘たちが、黒縄龍の死骸を登るためのエレベーターを作ってくれる事になった。
それが完成するまで、みんなで休憩する事とする。
戦闘で負った傷を癒すために、衆合の子たちが回復魔法を乱れ撃ちしている。
「あの能力、前にも言ったけど、私もらってないからね?」
回復組はニコニコと走り回っていた。
水を撒くように癒しを撒き散らす。何なんだこのチーム構成。
そんな中で、モブ子ちゃんはしょんぼりしていた。
「……力など、あっても良いことばかりではありませぬ」
「主様に……恐れられてしまいましたし……」
私は謝った。
「……ごめんて」
怖かったのは、確かに事実だけど、傷つけるつもりはなかった。
むしろ、それでも踏みとどまって、力を私のために使ってくれたモブ子ちゃんに、信頼が深まったのも本当だった。
「次は怖がらないように頑張る……多分」
そんなことを言っているうちに、
エレベーターが完成した。
黒縄龍の背骨を軸に、蜘蛛糸と魔法の構造体でできた奇跡の昇降機。
地獄のくせに、エンジニアリングだけ妙に進んでる気がする。
「では、行きましょう」
モブ子ちゃんの声に導かれ、私たちは乗り込んだ。
そうして、次なる地獄──等活地獄への道が開けた。