境界喪失
スライムたちは、無邪気だった。
本当に、悪気など一切ない顔で、ぷにっと私に貼りついてくる。
冷たい触感。半透明の青やピンクの身体が、体温のあるものを探すように、全身に寄ってくる。
「……あたたかい」
誰かが、そう呟いた。
彼女たちの身体は、ほとんど水のように冷たい。だから、私の温度はきっと貴重なのだろう。
「……これは、ひょっとしてそんなに被害がないパターン?」
そう思った。
そのときだった。
胸元に滑り込んだスライムのひとりが、敏感な場所に触れた。
「ひゃっ……!」
思わず、短い声が漏れる。
その瞬間、周囲のスライムたちがピクリと反応した。
「いま、あたたかくなった」
「声、あげたから……?」
「もっと声、あげてくれたら……もっと、あたたかくなる?」
やめて、その理論やめて。
だが彼女たちは、検証に入った。
私の身体にくっついたまま、そっと、そして無遠慮に「声の出る場所」を探し始めた。
わき腹。
うなじ。
太もも。
耳の裏。
足の指の間まで。
「ちょ、やだって……!」
身をよじって避けようとするが、スライムは密着していて逃げられない。
何より彼女たちは液体。
押し返しても、ぬるりと指の隙間から入り込んでくる。
胸を隠していた手の下にも、ひやりとした感触が忍び込む。
「ん……っ、だめ……そこっ……!」
声を出せば、また反応されると分かっているのに、声が止められない。
「ここ、声でた」
「ここも、あたたかい」
「いっぱい、声、ききたい……」
そんな囁きとともに、彼女たちの動きは確実に“重点的”になっていく。
触れられた箇所に集まり、ぷにぷにと形を変え、
熱を求めて、音を求めて、無邪気に、執拗に。
そのたびに、私の体温は少しずつ上がっていった。
逃げ場はない。
声は止まらない。
ぬるくて冷たくて柔らかいその感触に、
私はただ、身を固くして、なにかを堪えていた。
(……このままじゃ、ほんとに溶かされる……)
それは体液の話ではなく、感覚の境界のことだった。




