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青い空の作り方  作者: 鈴木りんご
二章「本当に欲しかったもの」
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第8話



 ――三十階。


 勇樹は歩き続ける。


 その頭と肩の上には天使が腰掛けていた。


 二人の見習い天使、フウとサン。


「これはさ……リースで言うところの、今ある幸せに気が付いて、それを享受している状態ととらえていいのかな?」


 頭の上に腰掛けたフウがサンに尋ねる。


「う〜〜ん。どうなんだろう? 何ていうか、今ある幸せに満足しているって言うより、今ある幸せで諦めてるって感じがしないかな?」


「だったら、僕たちは何をしたらいいんでしょうか?」


「とりあえずは応援してあげればいいんじゃないかな。せっかく、一生懸命頑張っているんだもん」


「そーだね。頑張ることはいいことだ。挫けないように応援してあげよう」


 そして二人は思う。


 ……頑張ろう。


 その想いで、心をいっぱいに満たすために、幾度となく思う。


 そのとき不意に――勇樹の心の中から違う想いが割り込むようにして溢れてきた。


 ……エレベーターを使ってしまおう。ばれないようにうまくやればいい。


 溢れ出してきたのは、そんな想い。


 その思いに負けないように……頑張ろうと、より強く思いながらフウとサンは後ろに振り返る。


 そこには悪魔見習いリースの姿が在った。羽をパタパタ、しっぽを大きく左右に振りながら嬉しそうに笑っている。


「ま~たぁ~リースが邪魔しに来たーー」


 眉間に皺を寄せて嫌な顔をするサン。


「来たねー」


 フウは少し楽しそうに笑みを浮かべる。


「邪魔をしに来たんじゃないよ。おーしーごーとっ。サンと一緒で人を幸せにしてあげるために来たんだよ」


「それでもっ駄目ぇ! 誘惑しないでー」


「えー。でも、めんどそうだし。無理して頑張る意味もなさそうじゃん。そもそも向上心なんかがあるから人間はいつまでも幸せになれないんだぞ」


「とーにーかーくー、駄目なものは駄目なのっ! 誘惑しちゃ駄目。これ以上邪魔するなら……潰すよ」


 冷たい、ひどく冷たい、まるで殺し屋のような目でサンはリースを見据える。その手には禍々しい大振りの棍棒が在る。


「ぬぅーー。またかっ。また暴力なのか。力で無理やり解決させるやり方はよろしくないと、悪魔のリース様は思うのです」


 右手をピンと伸ばして挙手し、意見する。


「よろしくはないと思うけど、仕方ないんです。リースが悪い子だから仕方ないのっ! ねっ、フウくん!」


「えっ?」


 急に振られて、フウは言葉が詰まる。


「仕方ないよねっ?」


 フウのほうに顔だけでなく棍棒まで向けて、不機嫌そうにサンは同意を求める。


「あ……うん。し、仕方ないね」


 フウは許された、たった一つの答えを震えながら口にした。


「えーー。またそうやって二人して、数の暴力で俺様を虐げるんだな」


 言って、悲しそうにリースは俯く。


 しかし、俯きながらリースは笑っていた。「くっくっくっ」と邪悪な笑みを溢す。


 そして顔を上げ、叫んだ。


「しかーーしっ、今日のリース様はこの前までのリース様とは違うのだ! 今までの俺様が超スーパー大悪魔リース様だったとするのなら、今の俺様は超ミラクルスーパー大悪魔リース様エクセレントと言ってしまっても過言ではないだろう。なーんーとーー、リース様は使い魔との契約に成功しました。だから、二対一でなく二対二。もう数の暴力に脅える必要はないのであります」


 使い魔、天使ふうに言うとファミリア。魔法によって召喚した、精霊、異界の獣と契約して永続的に使役するかなり高度な技術。


 上級の悪魔や天使でも永続契約にまで漕ぎつけるのは至難の業。まして見習いのリースには不可能なことと言い切ってしまっても過言ではないだろう。


 だから……


「嘘だ~~」


 サンが言う。


「嘘じゃないよ。本当だよ!」


「え~~。嘘だよ~~」


 もう一回サンが言う。


「だ~か~ら~っ! 嘘じゃないって。いいよ、呼んでやるよ。ビビッて、ちびっちゃってもしんないかんな。二人とも目ん玉かっぽじって、よーく見とけ。いでよーー!」


 リースは叫ぶ。それはもう格闘選手の入場のときみたいに声高らかに、巻き舌で。


「南海の黒猫~~。ポぅぉぉ~~チぃぃ~~~」


 ぼふっと小さな音とわずかな煙と共に、リースの横にそれは現れる。リースの背の三分の一くらいの大きさの黒猫のぬいぐるみ。


「……ぬいぐるみ?」


 フウが呟く。


 確かにそれはぬいぐるみに見えた。


 しっぽが少し長めの等身の低い、ディフォルメされた黒い猫のぬいぐるみ。材質は毛むくじゃらじゃなくて、ポリエチレン製かなんかのつるつるしたタイプ。目は白い。明らかに本物の目じゃなくてボタンかなんかがくっつけられているだけ。口はおちょぼ口で鼻はないっぽい。髭は口からかなり離れたところに左右に三本ずつ。全体的に平べったい見ているだけで和む、とても愛らしいぬいぐるみ。


 そんなぬいぐるみがリースの横にフワフワと浮かんでいる。


「……んと、それはどこのUFOキャッチャーから召喚してきたの?」


 ぬいぐるみを指差してフウが言う。


「UFOキャッチャーちゃうわーー! 一生懸命、魔方陣とか書いて召喚したのっ。書き順とか間違えたりしてけっこう大変だったんだからなっ。真名も聞いて、その後俺様が名前付けてあげて、しっかりと契約しました」


「ぬいぐるみと契約したんだ」


 そう言ったサンの顔は半笑い。


「だーかーらー、ぬいぐるみじゃありません! 確かに見た目はぬいぐるみちっくだけど精霊なの」


「ぬいぐるみの精なのかな?」


「違うっ! ポチほら、自己紹介してやれ」


「はいです! リース様の使い魔をさせていただくことになりました、ポチです」


 ぬいぐるみはぺこりとお辞儀して、少し鼻の詰まったようなかわいらしい声で自己紹介をする。しかし、喋ってはいても口は動いていない。


「あ、喋った」


 サンが楽しそうに呟いた。


「んと、まずはどこから突っ込んだものか? とりあえず、猫なのにポチ?」


 フウが聞いてみる。


「うん。召喚する前から、使い魔の名前はポチにしようって決めてました」


 リースは淡々と質問に答える。


「で、このかわいらしい声は、ポチはメス?」


「メスではないのです。ポチは女の子です。交尾とかに興味津々な年頃の女の子なのです」


「下ネタは嫌いです」


 サンは冷たい視線をポチに向ける。


『うん。下ネタは良くないね』


 フウとリースも揃って頷く。


「えぇー! ポチの存在意義を否定するですか? ポチの半分は下ネタで出来ているですよ……」


「えっ! そうなのっ?」


 驚きの表情をポチに向けるリース。


「いや、嘘です。そんなの。信じないでほしいです」


 言って、ポチはけらけらと笑った。



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