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青い空の作り方  作者: 鈴木りんご
三章「ハッピーエンド」
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第22話



 翌日も杉原先生は詩を持ってきてくれた。


 今度は「飛べない鳥」という題名の詩。




「飛べないのなら


 歩いて行こう


 ほら


 君は飛ぶことばっかり考えて


 進むことを忘れている




 知っているかい?


 飛べない鳥もいるって


 彼らは別に退化したわけじゃない


 進化したんだ


 飛べない鳥なんかじゃない


 飛ばない鳥さ




 だから飛べない君は


 歩けばいい


 空行く鳥たちが憧れるくらい


 大地の上を楽しんで歩いてやればいいんだ」




 ずいぶんと前向きな考え方だ。やっぱり、詩菜は気に入らなかった。


 詩菜は思う。


 歩くことすら叶わない自分はどうしたらいい?


 本当に歩けないわけではない。トイレには自分一人で行けるし、病院の中なら自由に歩いてもかまわない。しかし室外、病院の庭に出ることすら、詩菜には付き添いが必要だった。


 もし自分がこの作者の言う、飛ばない鳥だったのなら、死んでいるだろうと思う。満足に歩くことも出来ない自分は、ろくに餌をとることも出来ない。群れと共に行動も出来ない。


 確かに飛ばない鳥は不良品ではない。しかし自分は、正真正銘の飛べない鳥だ。飛べるはずなのに飛べない、欠陥品。


 そんなことを考えながら、ベッドに腰掛けて窓の外を眺める。窓から覗く狭い空。色褪せたその空を一羽の鳥が飛んでいた。


 とても気持ちよさそうに。


 そんな鳥を眺めながら思う。


 もしあの鳥から、翼を引き千切ったなら……


 飛べなくなったあの鳥は、楽しそうに大地を歩いて生きていくのだろうか……


 それが無理であることくらい、詩菜には容易に想像出来た。


「先生……」


 窓の向こうに視線を向けたまま呟く。


「何? 手術受ける気になってくれた?」


 部屋の花瓶の水変えをしていた手を止めて、杉原先生は答える。


「違います。そうじゃなくて、この詩はどうしたの?」


「ああ、その詩ね。路上販売とかいうの? 最近、駅で詩を書いて売っている子がいるのよ。それで、詩菜ちゃん本とか大好きでしょ。だから、喜ぶかなと思って買ってきたんだけど。どうだったかな?」


 尿瓶で、花瓶に水を注ぎながら杉原先生は笑顔で言った。


「どんな奴が書いてた?」


「大学生くらいの男の子? 名前とかそこに書いてない?」


 言われて、詩菜は色紙を確認してみる。色紙の左下のほうに名前が書いてあった。


鈴木すずき優和ゆうわ……幸せそうなへらへらした奴だったでしょ」


「確かにニコニコしてたかな? 会ってみたい? 会ってみたいんだったら、来れないか、聞いてみようか?」


 会ってみたいわけではない。詩菜は文句を言ってやりたかった。


 こんな幸せそうな詩を書く奴に、自分の境遇を見せて、それでもそんなことが言えるのか聞いてみたかった。


 ただ……それだけだった。



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