第17話
空ばかり見ていた。
朝も昼も夜も、雨の日も雪の日も……
飽くことなく、彼はいつも空ばかり見上げていた。
そして、思う……
この空の向こう、天国と呼ばれる場所に彼女はいるのだろうか? 死んだ者は星になるというのなら、夜空をきらめく星の中に彼女の星は在るのだろうか?
そんなことに思いをはせ、彼はただ……今日も空を見上げていた。
彼は以前、小説家になりたいと思っていた。
ハッピーエンドで人に幸せを与えられるような……そんな物語を書きたかった。
そして、彼と彼女の物語は……
彼は思う。間違いなくその物語はハッピーエンドだったと。
そう……きっと彼女にとってそれは幸せな終わりだったはずだ。
だから彼は泣かなかった。
そして彼は終わらずに続いていった。
彼と彼女の物語は終わった。彼女の物語も終わった。
しかし、彼女のいない世界で彼の物語だけが終わることを許されず、続いていた。
だから彼の物語で終わったもの。それは幸せな物語ではなく、幸せそのもの。
彼の物語の中で幸せは終わっていた。
彼が色褪せた空を見つめるようになってから二年と十五日。彼女が死んだその日から二年と十五日後のことだった。
彼は今日も、空ばかり見ていた。




