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青い空の作り方  作者: 鈴木りんご
二章「本当に欲しかったもの」
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第11話



 現在地――五十八階。


 一歩一歩、確実に地を踏みしめて進みながら、勇樹は考えていた。


 今したいこと……


 とりあえず何か食べたい。


 お腹が減った……


 今日はエレベーターを使わず会社に行くために、いつもよりかなり早く家を出てきた。だから朝食を食べていない。


 今一番したいこと……何か食べたい。お腹がすいた。


 確かに今、疲れてはいる。でも、勇樹にとってそれは食欲とは関係ない。


 よく学生の頃、体育後は疲れていて昼ご飯が食べられないだの、風邪をひいて食欲がないだの言う人がいたが、勇樹にはその気持ちがわからなかった。


 だから、疲れ果ててくたくたになった今でも、目の前においしそうな食事が出されればすぐにでも食べられる。


 今、特に食べたいもの……


 勇樹はさらに考える。


 好きな料理……たくさんある。カツ丼、うな重、ざるそば、すき焼き。


 その中でも今、一番食べたいもの。


 ピザが食べたいかな……勇樹は思う。


 じゃあ、どんなトッピングのピザがいいだろう……


 勇樹はまだ考える。


 照り焼きチキン! これだけは外せない。これは絶対だ。次はサラミとコーン。この辺は定番だろう。チーズやマシュルームも多めがいい。後、回りは少し焦げているくらいでパリパリとしていて硬いのがお好みだ。


 でも、トマトは駄目。ケチャップには何の問題もないが、トマト自身が入っているのは絶対にNG。トマトは勇樹が一番嫌いな食材だ。


 赤い悪魔……トマトのことを考えていると、小学校の給食で、トマトが食べられなかったときのことが思い出される。給食の時間が終わり、昼休み、掃除の時間、さらには五時間目が始まっても、勇樹はトマトとひたすらに睨めっこを続けていた。なぜか、その後結局トマトを食べたのか食べなかったのかは思い出せないが、とにかくそれは勇樹にとって小学校の思い出で一番辛かった思い出だ。


 そんなことを考えていると勇樹は鼻孔をくすぐるいい匂いに気が付いた。


 勇樹はクンクンと鼻を忙しく動かして、匂いの正体をつきとめようと試みる。


「あ……ピザだ」


 驚きと共に声がこぼれた。


 その匂いはまぎれもなくピザの匂い。


 もう一度クンクンとやる。


 とてもいい匂いだった。


「そういえば…………」


 勇樹は思い出す。そういえば、何階だっただろうか? この辺の階にちょうどイタ飯屋があった気がする。


 なんて偶然だろう……これはもう食べるしかない。食べざるを得ない! 食べないわけにはいかないです! そんな想いが心の中で溢れてきた。


 でも駄目だ。我慢しなければ駄目。誘惑に負けたら駄目だ……今度はそんな想いも溢れてくる。


 勇樹は腕時計を見る。もうすぐ十一時。今のペースでいけば、たぶん会社に付く頃には十二時を回っているだろう。


 我慢しよう。


 勇樹は心の中で硬く誓いを立てる。少しの間だけだ、我慢しよう。


 確か、ここのイタ飯屋はビル内限定で出前もしてくれたはずだ。以前同僚が出前していたような気がする。もし無理でも会社に付いてからエレベーターを使って食べに行けばいい。


 だから今は我慢しよう。それがいい。


 そう思うと少し気合が沸いてきた。目的地にはご褒美が待っている。


 だから、頑張ろう。


 そう心に決めて、勇樹はさらに上へと向かう。さっきまでより、少しだけスピードを上げて。



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