私の怒りを買いましたね!?
第九話です!
「分からない」
そう答えたら、鼻の奥がつんとした。
嘘をつく。息を吐くように、私は嘘をつく。
「分からないの。
誰かを許せない自分もいるし、誰かを許してる自分もいる。
こんな私は、お人よしとかじゃなくて、ただ、自分勝手な奴だ」
……嘘なのに。
嘘なのに、どうして心臓がぎゅうっと痛くなるんだろう。
両親も、姉も、村の奴らも。
許したことなんか、一度もないのに。
今だって――殺してやりたいと、思っているのに。
「……そうか」
柳くんは不愛想に言って、「もうそろそろ入浴だから」と、その場を去っていった。
「雅也」
校長先生が柳くんに声をかけるけど、柳くんは振り向かない。
やがて、彼の姿が消えると、校長先生はため息をついて言った。
「ごめんねえ。ちょっと気難しい子だから」
「いえ、気にしてないですし」
「……雅也は、母親が死んでからずっとああなんだよ。
前はよく笑ってよく泣く、優しい男の子だったのに」
母親が死んで、精神を病んだ。闇落ち。
私には理解できない思考回路だ。
私の母親は、逆に死ねばいい。彼の母親のように、子供に慕われていない。
まだそんなに柳くんと仲良くないけど、でも、思う。
――死ぬのが、私の母親だったからよかった。
精神を病むくらい苦しんだ彼と違って、私の場合、もし母が死んだら飛び上がって喜ぶと思う。
神様は、残酷だ。
「……すみません、失礼します!」
ふいに思いついたことがあって、私は校長先生の横をすり抜け、柳くんが消えた方向へ向かった。
――まだいるかな、柳くん。
私ね、あなたに聞きたいことがあるの。
――あんた、ずるいよ。
頭の中で叫びながら、廊下を小走りしていく。
――ねぇ。
その後ろ姿は、すぐに見つかった。
だるそうに歩いている。ため息をつくのが、聞こえた。
「柳くん!」
彼の名前を呼ぶ。それでも彼は振り向かない。
「柳雅也!」
柳くんは気にも留めず歩き続ける。
「この卑怯者!」
叫んだら、柳くんがようやく振り向いた。
――うっわ、すごく面倒くさそうにこっち見るの、やめてほしいんですけど。
「あんた、すごくずるい! 最低! そんなんじゃモテないよ、一生独身だよ!」
「……は?」
明らかに柳くんが怪訝そうな顔をする。
「あんただって! あんただって、能力を何に使うか話してよ! 人には話させるくせして、自分じゃ話さないなんて、卑怯っ。最低っ」
「……別に関係ねーだろ」
「関係ある! あんたがこっちに言えって言ってきたのにあんたが言わないなんて、ふざけんな。調子乗り」
少し言い過ぎたかな、と思ったけど、謝る気もしない。
柳くんが言う。
「大したことじゃねーし、まっとうな人間には分かんねーよ。お前みたいに、人のこと一回も恨んだことなさそうな幸せ者には」
「は?」
――人のこと、一回も恨んだことない?
――何言っちゃってんの、超ウケるんだけど。
「誰があんたに、私の本当の目的を話すと思う?」
……いらいらする。むかつく。
「私、あんたより苦しい思いしたんだけど⁉ 初対面のくせに幸せ者だなんて決めつけないでよ! 幸せ者なんて、私がいちばん夢見てるんだよ! むしろ、そうなるために能力使うんだよ!」
――ねぇ、あんたは、三食合わせてパンひとかけらしか食べさせてもらえなかったことはある?
気持ち悪い、こっち来んな、死ね、消えろなんて暴言を、二十四時間三百六十五日吐かれ続けたことある?
石を投げられたことは?
何かあるたび、関係ないのに殴られて蹴られたことは?
唯一の味方を、姉に殺されたことだって、……ないくせに。
私はぽつりぽつりと、今までされたことの数々を話し出す。
――お前の方が幸せ者じゃねえか!
「私はね、復讐するの。生まれてからずっと、私を虐げてきた両親と姉と村の奴らをね。みんな殺してしまう。最高の拷問を提供するの。
そんな私がまっとうで幸せ者に見えるなら、今すぐに眼科にでも行ったらどう?」
柳くんは、ぽかんとしていた。
ずっと。ずっと。ずっと。
しばらくして。
私も落ち着いてきたころ、彼が言った。
「お前が苦しんだことは、分かった。……だけど同じくらい、俺も苦しんだんだ。
だが、腑に落ちない点がある。
レイさんが、姉に殺されたというのか?」
レイさん。
彼もおばあちゃんのことを知ってるんだ。
「そうだよ。……お姉ちゃんによる放火でおばあちゃんは死んで、私はそのときにおばあちゃんから能力を受け継いだ」
「そうか。……俺と同じパターンだな」
「えっ?」
終わり方がなんか微妙ですみません。
けど、今日中に次の話を書くのでお楽しみにっ!




