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何もできなくても、ただ君を side.雅也

もうそろそろクライマックス……!

莉緒たちと一緒に走り切りましょう!

「神崎リオの本当の姿だよ?」

「っっ⁉」


 俺は一歩後ろに飛びのく。あいつはクククと笑っていた。


「リオ、本当は、君たちのこと疑ってたんだよ? 自分のこと嫌いなんじゃないかって、不安だったんだよ? あ! そっか!」


 そいつの、光のない目が大きく開かれた。




「リオも、君たちのこと、嫌いだったんじゃない?」




「お前……っ!」


 俺は持っていた包丁を高く掲げる。——だけど。


 包丁を振りかざした手が、途中で止まった。手が震える。


 彼女の顔が、莉緒と重なる。あの日、あの時だけ、素顔を見せてくれた彼女。サマーねずみについて、楽しそうに語っていた彼女。


 過去だろうが今だろうが、莉緒は莉緒だ。


 手を途中で止めた俺に、そいつが不思議そうな目を向けてくる。


「どうしたの? 早くやりなよ」

「俺は……俺は……っ」


 震える手を何とか押さえる。きっと前を向いた。


「お前が……好きだったよ……」

「は?」

「どんな姿でも、莉緒は莉緒だ。たとえどんなに人を痛めつけても、お前はお前だ」

「何、言ってるの? あんたが一緒にいた莉緒はあっち——」

「あっちもこっちもねぇよ!」


 そのまま俺は、そいつを押し倒した。そいつが驚いたように目を見開く。俺は続けた。


「お前も、莉緒も……どこか、寂しそうなんだ。いつも、少し寂しそうに人を見る。いつも寂しそうな眼をしてる。俺も——少し、分かるよ。誰にもわかってもらえなくて、寂しくて、誰かに助けてもらいたくて。お前は、未来の自分にそれを託した。でも未来のお前はもう、復讐なんざやめたいって考えていたみたいだけど」

「なんなの? 知ったかぶり……しないで」


 そいつが俺の手を振り払った。俺を睨みつけて言う。


「わたしの気持ちは、誰にもわかりやしない。わたしを助けてくれるのは、唯一、未来の私だけだったのに」

「そんなことない。わからなくても、助けることはできる」

「だって‼ 誰も助けてくれなかったじゃない‼‼‼」

「それは違う‼」


 俺は叫んだ。そいつに、俺の言葉が伝わるように。そいつの心まで、届くように。


「そもそも……助けてもらおうともしなかっただろ?」

「……え……?」

「学校の先生に相談もしなかった。村から逃げようともしなかった。ただこれが仕方ないんだって言い聞かせて、そばにいてくれる友達の存在に気づかなかった。……いや、気づきたくなかったのかもな」

「何言ってるの……? しなかったんじゃない。できなかったの……」

「そうだな……その時のお前は、そうだったかもしれない」

「えっ?」


 俺は桜木を見た。泣きながら莉緒の名前を呼び続けている桜木。起きて、起きてよと、叫んでいる。手を血まみれにしながら、泣きながら。


「俺は……莉緒の友達で、いつかはそれ以上になりたいって思ってるだけの、ただの学生だ。

あいつも、口は悪いけど、実は莉緒が大好きで、友達のためなら自分を捨てられる。

ほかの、クラスの奴らだってそうだ。なんの力もないし、特別何かができるとか、そういうわけじゃない。人間操作能力だって、使いこなせるには遠く及ばない。……だけど」


 そいつは寝ころんだまま、俺を見上げる。俺は告げた。誓うように、届けと願いとエールを込めて。






「俺たちの、莉緒を想う気持ちだけは、誰にも負けないっていう自信がある」






 桜木が、驚いたように顔を上げる。俺はそいつの顔を見つめた。そいつは、ひどく泣きそうな顔をしていて、それを見た俺も、泣きたくなってくる。


「なん、で……」

「いい加減気付け。お前のまわりにはたくさん人がいて、そいつらがお前を強くする。お前の、復讐しかなかった人生の目標を、満たしてくれる。それだけじゃない。お前が、誰かの心をそうさせる。それは決まっている、お前の未来なんだ。だから、未来を信じて生きろ。お前の人生は真っ暗闇じゃない。俺も、桜木も、クラスのみんなもいるんだ。だから、もう二度と」


 いつの間にか、俺はそいつの頬に涙をこぼしていた。その時、まだ俺がそいつを押し倒したままの状態だったことに気づく。そいつも、泣いていた。悲しそうに、それでいて、少しだけ、嬉しそうに。



「もう二度と、未来のお前を……いや、お前の未来を、殺そうとするな」




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