「私」と「わたし」
今回はかなりボリューミーな一話に仕上がったことと思います・・・・・!
楽しんで読んでいただければ幸いです!
「久しぶり」
そう言うと少女は、一瞬にして私の隣まで来ると、私の肩に手を置いた。
その瞬間、部屋の扉も大きな音を立てて閉まる。
「……っ!」
私はその手の冷たさに、思わず飛び上がる。その子は続けた。
「ふーん。随分楽しそうにしてんじゃん」
「ひっ……」
「なんでそんなに身構えてるの? わたしは、あなたなのに」
「違う……私は……」
「何が違うの」
ガッ!
少女は私の肩に指を食い込ませる。私は痛みに耐えながら、少女の顔を見た。
顔半分はあざに覆われていて、とても美しいとは言えない、希望のひとかけらも感じさせない瞳——。
間違いない。この少女は——。
「ねえ。この部屋、懐かしいでしょう?」
「え……」
「あんたは何度も叫んでいたよね。ドアを何度も叩いて、扉の向こうから聞こえてくる、両親、姉の声を聞かないように必死に耳をふさいで。……でももういいんだね? あんたは、自由になったんだ?」
バン!
少女は、私を壁側まで追い詰めると、壁に思い切り手を突いた。私は思わず身構える。
「今の自分が幸せなら、それでいいんだ? それで満足?」
「あ……」
「あんたは何度も願ったよね。お願い出してください、お願い、出してください——。ドアを叩きながら、ずっとそう叫んでいたよね。家族も、自分自身も、すべてが敵だと思ってたよね。今は何? 友達に囲まれて、楽しく生きて……もう復讐なんて忘れて、やめて生きていこうって、そう思った?」
少女の目が、怖い。でも、その目を私は知っている。
だって、この子は、昔の私だから——。
「ダメだよ、そんなの。わたしを裏切るの?」
「なんで……」
「ねえ、思い出して? ここ、毎日閉じ込められた部屋だよね。何度呼んでも、助けを求めても、笑い声しか聞こえなかった。おなかがすいて、寂しくて、辛かったよね?」
外側からかけられた鍵は内側からは絶対に開かず、窓のない部屋は本当に逃げ場のない埃だらけの場所で、私は自室の代わりにここに閉じ込められていた。
家族たちはいつも、この扉の外側から、私をあざ笑っていて——。
「本当はみんなも、思ってるんじゃないかな。あざだらけの、心の汚い子なんかいらないって。本当はみんな、リオのことが嫌いだよ?」
「……嘘、そんなわけ……」
「リオみたいな、わるーい子は、幸せになっちゃ駄目なの。せっかくおばあちゃんからもらった大事な大事な能力を、無駄にするなんてありえない。あんたは、復讐しないとだめなの。わたしを、助けてくれなきゃダメなの」
「わたし」が私の体を押し倒す。馬乗りになって、私に話しかけた。
「ねぇ、リオ。ずっと一人でここにいた時のことを思い出して? ご飯も満足に食べられなくて、時折扉が開いては、お姉ちゃんにずっと殴られて。学校でも、いじめに遭ったよね? あざだらけで、醜い自分なんか、消えちゃいたいって思ってたよね。この世界の全員、死ねばいいって、世界が終わってしまえばいいって、思ってたでしょ?」
「そんなこと、思ってないっ……」
私は必死に叫んだ。「わたし」は私の髪の毛を掴み、無理矢理上半身を起こさせる。子供に語り聞かせるみたいに言った。
「いい子ぶらなくていいの。わたしはリオのこと、何でも知ってるんだから。……ねえ、偽りの自分で生きてても、なーんにも、楽しくないでしょ? 昔の自分を、こんな目に遭わせたやつが、許せないでしょ? 仲良くしながら、本当はみんな、リオのことが嫌いなんだよ。ねぇ、許せないよねえ、そんなの。みんなに仕返し、しないといけないよねぇ。ねえ?」
「やめて……」
その瞬間、「わたし」の細くて白い手に、何かが現れた。
——包丁、だ。
何に使うのかは言うまでもなかった。慌ててよけようとする。でも、近くにあった障害物のせいで転んでしまった。
呆然と、鈍く光る包丁を見上げた。
包丁が、私の胸に振り下ろされる。
鈍い痛みが走った。赤黒い液体が床に広がる。
そうか。そうか、この子は。「わたし」は——。
復讐しか、助ける道がないんだ。
復讐を目標にして、今までどんなことも耐え抜いてきて。
大きくなったら復讐しようって、ずっと、それだけのために、生きてきて——。
だから、許せないのだ。
未来の自分が、やるべきことを放棄したことを。
「……ッッ!!」
私はもう泣きそうだった。駄目だ。このままじゃ。このままじゃ——。
「いいんだよぉ、リオ。世界中がリオを嫌っても、わたしだけは、リオを大事にしてあげる。リオを認めてあげるよ。ねっ?」
——本当はみんな、私のことが嫌いなんじゃないかって、ずっと、思ってた。
「復讐してもいいの。むしろ、それでも足りない。何にも悪いことしてないリオが、あんな目に遭わされるなんて、どうかしてるよね?」
——どうして何もしていないのに、こんなにひどいことをされても仕方ないんだろうって思ってた。
「この醜い痣を恨んだよね? この身体に産んだお母さんと、そして神様を憎んだよね?」
——痣さえなくなれば、って思ってた。親ガチャに失敗しなければ、って考えてた。
「世界が終わってしまえば楽なのに。今までにひどい仕打ちをしてきたやつ、みーんな殺しちゃいたかったよね?」
——みんな死ねばいいのにって、思ってた。
「楽しそうに生きてるやつを、幸せそうに生きてるやつを羨んだよね?」
——なんで私がこんな不幸で、他の人が幸せになっていいのって——。
心の中の嫌な気持ちは、水に落ちた絵の具みたいに、私の心を黒く染めていく。
それをわかっているのか、「わたし」は笑顔でくつくつ笑い始めた。
私はもう、息ができなくて。口からこぼれるのは、赤黒い液体だけだ。横たわってうずくまり、ふー、と息を吐く。視界がどんどんかすんでいく。
これで、終わりなの? 私は、これで?
せっかく、みんなに会えて、少しずつ考えが変わり始めて、もう、復讐なんかやめようって、過去に囚われないで前を向いて生きていこうって、決めたのに——!
どうしてこんなことに、なっちゃったの……?
私は——。
ただみんなと——一緒に笑いあいたい、だけなのに——!!!!!!!!!!
その時、だった。
扉がガタガタとすごい音を立てて、そして——
「神崎!」
「神崎リオっ!」
誰かの、声が、聞こえた。ような気がした。
けたたましい足音とともに、部屋に何人もの人がなだれ込んできて——。
——だけどもう、遅かった。
赤黒い液体を口から吐き出す。白い制服が、赤く染まっていく。
ああ……、苦しい、な……。
——オ、リオっ……‼
私は最期まで、柳くんの幻覚を見ているんだ……。
柳くんが、ここに、来るわけ、ないのに……。
ねぇ柳くん、私、柳くんに言いたいこと、まだいっぱいあったのに。
サマーねずみのこと、もう一度話したかった。
昔一度私たちが出逢っていたこと、覚えてるのって聞きたかった。
好きって、言いたかった——。
泥に落ちていくように、私の視界が少しずつ黒く染まっていく。
もうこれでおしまい。
だけど、これでいいんだ。
いろんな人に出逢えて、いろんな考えを知れて。私はそれが、すごく楽しかった。
これでいい。これでいいんだ。
そうだよね、おばあちゃん。
これで、いいん、だよね……?
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