柳雅也の過去1
「雅也ーっ、まだ起きてる?」
母親の声が響き、子供の世話をしていた当時十四歳の雅也は顔を上げた。
「……お母さん?」
「ごめんねえ遅くなって。あーら。また桃夜泣きしたの?」
彼女は雅也の母親だ。警察官なのでいつも忙しく、帰りは夜中の三時過ぎがほとんどだ。その日は、いつもより一時間早く帰ってきていたので、雅也はそうつらくない。
いつもに、比べれば。
「いつもよりは早いし、大丈夫だよ」
「大丈夫って……。雅也、そろそろテストじゃないの。ちゃんと成績とれてるの?」
「成績のほうを大事にして、桃とか死んだらどうするんだよ。元も子もねぇじゃん」
「それはそうだけど……」
複雑そうな表情をする母親に、雅也は苦笑した。母親は続ける。
「雅子は?」
「帰ってきてるわけないじゃん」
「そう……」
姉の名前をあげる母親。
雅也より三つ年上で高校二年生の姉、雅子は、いつも夜中遊び歩いている不良だ。
髪の毛もチカチカするようなピンク色だし、スカートの丈も異様に短い。だが彼女は整った顔立ちをしていて、今まで何人もの彼氏を作り、そのたびに浮気をしてきたと聞く。
高校も地元の高校で、本当にギリギリの合格だった。
とはいえ、雅子は高校をサボって友達と遊び歩いているのだ。
最近は、夜の街中の仕事で忙しく、しかもどこで寝泊まりしているのか、ほとんどの日は帰ってくることもない。
雅也の兄である雅人は四歳年上で海外に留学中だし、今家で最年長なのは雅也だ。
だから、ほかの三人の世話は雅也がしなければいけない。
もちろん父親も家にはいない。
狭い家だし、雅也は勉強も両立しなければならないので、日々大変で忙しい生活を送っていた。
「雅也……本当に大丈夫? 最近ずっと顔色悪いでしょ」
「それはお母さんだろ。いいから早く寝ろよ。花子が起きる」
「あ、そっか……」
柳家には、六人の兄弟がいる。
長男の雅人、長女の雅子、次男の雅也、次女の花子、三男の優紀、三女の桃。
そのうち、現在は長男と長女がいないために四人兄弟プラス母親の主に五人家族となっている。
「でも雅也……代わるわよ、あなたが寝なきゃ。背も伸びないでしょ」
「背なんか、いらない」
雅也はきっぱりと言って、桃を見つめた。
「う……う……うぎゃああんっ!!!」
「ほらお母さん、また桃が泣いた」
雅也はため息をついて母親を見る。
「余計なことしなくていいから。早く寝て」
「雅也……」
母親はこれ以上何を言っても通じないと思ったのか、ため息を落としてその場を離れる。
その日は一日中、雅也が寝ることはできなかった。
雅也は、人生に期待をしていなかった。
それを知ったのは、もう三年も前。
小学六年生の頃の話である。
少し短くなってしまったかも?
あと、これからは今までのように毎日更新できなくなるかもしれないです・・・。
申し訳ないです。できるだけ前のペースに戻していくつもりですので、よろしくお願いします。




