桜木優子の過去5
それから、優子は、美鈴がくれた能力を、何に使うか考えた。
その能力は、「一つだけ」願いを叶えられる能力と引き換えられる。
じゃあ、それで自分の願いをかなえてやる。
一つだけ、叶えたい願いがある。
——お母さんを、お父さんを、お兄ちゃんを、……そして美鈴を。
私のもとに、戻す。それだけでいい。自分の命など、知ったことではない。
そう、思っていたのに。
「桜木さん、進路は本当にここでいいの?」
「はい」
優子は頷いた。担任の顔が、驚いたように歪む。
「でも……ここって」
続けようとした担任を遮って、優子はほほ笑んだ。
「兄の通っていた高校ですから。ずっと前、文化祭へ行ったときから、ずっと目指していた高校でした」
「でも、やっぱり……」
「大丈夫ですよ、先生。もう気にしてないです。私は、あの学校を、お兄ちゃんの通っていた学校ではなく、ただの高校としてとらえています。それとも……」
優子は顔をななめに傾けて、担任を見上げた。
「それとも、そこに行くには……私の学力が、まだまだ足りないでしょうか?」
これは、魔法の言葉だ。
自虐しながら、不安そうにしてみせ、担任を困らせる。だが、このテクニックは担任にはあまり使えなかった。
でも、さすがの担任も、少しためらいがちに「あの」と声をかけてくる。
「そんなことはないわよ。桜木さんは成績優秀だもの。だけどね、本当に……自殺があったってことは、それを聞いて集まってくる人たちもたくさんいるということなの。昔イジメがあって……しかもお兄さんがそうだったのなら、桜木さんが精神的に……」
「ほんとにもう気にしてないんです。今はこんなに友達もいますし、兄のことは今も好きだけど、過去をばっさり切り捨てて、新しいことを試みようとしています。
だからこそ、もともと行きたいと思っていたあの学校にどうしても進学したい。ダメ、ですか?」
上目遣いに担任を見ると、担任は唾をのんで、苦笑した。
「桜木さんの将来だもの、最後はあなたが決めなさい」
「ありがとうございます……!」
優子は頭を下げて、教室に戻った。
本当は、何も望まない、はずだった。
みんなが、生き返ってくれるなら、それ以外は何も。
でも、欲が出た。
——お兄ちゃんをあんなめに合わせた奴を、放っておけるわけがない……。
せっかくもらったこの能力。
でも、「願い事能力」に引き換えるまでは、普通の能力も使える。
だったら、「人間操作能力」でお兄ちゃんのカタキをとり、あとで願い事をすればいいじゃないか。
そう考えてからの行動は早かった。
まず、兄を苦しめた奴らを捜し出す。
ネットで軽いハッキングを学び、兄の高校から情報を抜き取った。
そして、ふたたびあることが判明した。
お兄ちゃんを苦しめた、主犯格のセンパイ。
そいつが、母校で教師を始めるという。
若すぎるのもどうかと思うが、絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
ほかの奴らは許しても、そいつだけは許さない。
そして何より——、
そんな人に、教師になんて重要な仕事をやってほしくなかった。
だから、優子は頑張った。
兄の高校に入るべく、努力を重ね、そして——。
優子は、ついに入学した。
兄の母校である、私立桜美鈴学園に。




