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桜木優子の過去2

 母親が、亡くなった。



 その現実は、遠慮などひとかけらもなく、残酷に、桜木兄弟に降り注いだ。


 もともと、成功する確率の低い手術だと聞いていたし、覚悟はできていた。


 でも、今まで繰り返してきた手術では、なんともなかったから、少し安心していたというのも嘘ではない。


 だけど、母親は死んだ。その事実は、何があっても、変わることはない。




「おにい、ちゃん」


 かけた声が、冷たく響いて、消えていく。


 葬儀が終わって、帰る途中のことだった。


 竜二がもう成人していたことや、引き取り先がいないこともあって、桜木兄弟は二人で暮らすことを決めていた。


「……」


 いつも優子に優しい竜二が、優子の呼びかけに答えず、ただ硬直している。


「お兄ちゃん!」


 何度呼びかけても返事はない。


 優子は諦めて、下を向いた。




 竜二が変わってしまったのは、それからだった。


 帰りが遅くなり、必要最低限の会話しかしない。


 優子はそんな兄のことを心配して、できる限りのことは自分でするようにした。


 でも、竜二の素行に変化はなく、そして、竜二が高校を卒業する一週間前——事件は起きた。




「もうお兄ちゃんもそろそろ卒業だね」

「……ああ、そうだな」


 いつも通り、そっけなく答えた竜二。


 優子は小さく笑って、家を出る。


 優子にとって、中学二年生がそろそろ終わる時期でもある。


 大好きな先輩に想いを伝えるだの何だのしている生徒が多くみられた。


 優子には、そんな暇はないのだが。


 学年のまとめのような授業をぶっ続けで受け、やっと学食になったころ。


「桜木さん! ちょっと」


 職員室から飛び出してきた担任に呼ばれた。


「何ですか?」


 嫌な予感がして優子は担任を見上げた。


 優子は、あの日のことを思い出していた。


 そう、母親が死んだあの日のことを——。


 あの日も、そうだった。担任が焦った様子で飛び出してきて、私に告げたのだ。


 桜木さん、お母さんが、と。



 でも、そんなお母さんもいないし、親族だっていない今、一体誰のことで担任から告知を受けるというのか?


 ——それは、ただ一人だ。


 考えたら、心臓がぞくっと冷えた。


 まさか。


「お兄さんが……」


 案の定、担任の口からこぼれた言葉は、竜二のことを指していた。


 次の言葉を、優子は待った。


「お兄さんが、病院に」


 それはまさしく、「あの日」とほとんど変わらぬセリフだった。




 病院に駆けつけた優子は、「手術中」と赤いランプの灯る部屋の前でただ立ち尽くしていた。


医者の説明によると、竜二は、服毒自殺を図り、すぐさま病院に搬送されたが、手術は難航中のようだった。


 すべてが、あの日と同じだった。


 ただ一つ違うのは、それが母親ではなく、竜二だということだけ——。






 そして、竜二は亡くなった。







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