こんな冷静な私でも、あんなこと言われたら平常心をなくすのは当然ですよね?
姉の言い分はこうだった。
私が家を出てからというもの、両親は癖だった虐げができなくなり、苛々していたという。
だから、私が帰ってくるまでは、姿がよく似た姉に標的を変えたんだとか。
それが苦しいので、今すぐに私に家に戻ってほしいと。
「……お願い、リオ。私だって辛いのよ。謝るから……謝るから、許してよ!!」
「は?」
思っていたより、冷たい声が出た。
気分が悪い。胃の奥深くがぐつぐつ煮えたぎっているような、そんな胸糞悪さがこみ上げた。
吐き気がする。自分に都合よく言い分を変える、姉に対して。
「ふざけないで」
「すぐ了解してもらえるとは思ってない。だけど、家からでも学校は通えるんでしょ? だったら」
「ふざけないでって言ってんだけど、日本語分かんない?」
私は怒りを抑えながら、言った。
「その、あんたの言う、『虐げを楽しむ両親』とかいうやつ。……それ、両親だけじゃないでしょ? あんたもじゃないの」
「違っ…………」
「違わないよね? 両親より酷いことをしてきたのはあんただと思うし、何より、あんたにターゲットが変わってからまだ五か月くらいじゃないの。私はね、どれくらいあんたたちにいじめられてきたと思う?
——十六年よ、十六年。私の人生は、あんたらのせいで滅茶苦茶にされたんだ!!!」
顔が、心臓が、熱い。
「そんな、赦しを乞うくらいなら……最初から私のことを苦しめなかったらよかっただけの話でしょ!?
そもそも、そこで私が戻ったら、ターゲットが私に移って、それにあんたも協力するんでしょ? 両親には逆らえないもんね。
今だけいい人ぶって、これからはまた元のようになる……そんな人のことを、助けたくなんかない」
きっぱりと言った。
それは私も、言うと決めていたことだった。
——だけど、その瞬間。
それまで戸惑いを浮かべていた彼女の表情が、激変した。
「何よそれ!? せっかくいい話を持ち込んだのに、そうやって私をワルモノにするんだ? そういうとこ、前から変わってないよね。そんなんだから、両親にも私にも見下されたんじゃないの? それって当たり前じゃない?
いじめを止めてほしかったなら、やめてって言えば済む話じゃない! おばあちゃんにもあることないこと言ってさ、そうやってまた私がワルモノ!?
冗談じゃないわよ。もういい。そう言うなら、私もう、作戦を考えているから」
「作戦?」
——何をする気よ!?
考えが、ふと、よぎる。
「まさかっ……」
「気づいた? さっすが、桜美鈴学園に入学しただけあって、頭の回転は速いわね」
姉は不敵な笑みを浮かべる。
「私達は顔も姿も似てる。あんたのやけどが消えてからは、何度か間違えられたこともあったわよね?
じゃあ、私があんたに成りすまして、あんたが私になればいい。そうすれば、お互いwin-winでしょ?」
そう言うなり、姉は私に手を伸ばした。
「何するのっ!?」
「なりすますためには、とりあえずあんたを隠す必要がある。
格闘技は、最近で鍛えられたわ。リオ。私はあんたになる。あんたは私になる。だから……消えてくれる?」
姉が、私に手を振りかざす。
「やめてっ!!!」
突然のことに。
私は、強く願った。
——お願い、おばあちゃん。助けて——!




