いつから私はこんな怖がりになったんでしょう?
違う。違うよ、私が求めてるのは、そんな大きなことじゃない。
「……理由を、聞きたいの」
「うん?」
「どうして、あんな面倒なことしてまで私の卒アル写真をばらまく必要があったのか。ちゃんと、本人の口から理由を聞いて、もし私に何か原因があるならなおしたいと思う」
「……悪い」
突然、柳くんが謝った。
「な、何っ!?」
「そんなに冷静だとは思わなかった。今まで、神崎に隠してたことがある」
「隠してた?」
「そうだ。……桜木のことだ」
どういうことだろう?
意味が分からず、彼を見つめ返す。
「桜木が犯人だろうと言うことは、もともとあらかた見当がついていた。それを黙っていて悪かった」
「え?」
——柳くんは、分かっていたの? ユウが犯人だって。
「神崎は、おかしいと思わなかったのか? 桜木の最近の行動に」
「特には……」
「そうか……」
柳くんは、話すか話さないか迷っている様子だったけど、決心したのか顔を上げて話し出した。
「まず、最初におかしいと思ったのは、桜木が、写真を送信した奴のアカウント名を知らなかったことだ。『送った奴の名前を見れば、誰が犯人かくらいわかるのではないか』桜木はそう言ったが、俺には違和感があった。いちばんはじめにあの写真を見たのは桜木だろう? 普通、誰から来たかくらい、その時点で確認するはずだ。
それに、桜木のスマホは、誰からのメッセージなのかが、通知でわかるようになっている。そこで、ただの公式アカウントだったら無視して、彼氏などの大事な人だったらすぐに返す、という仕組みだ。だから、桜木だって、『とあ~る人が写真を送信した』という内容の通知を見てこそ、チャットを開いているはずなんだ。
だから、桜木がそれを知らないはずはない。とあ~る人から送られてくる写真が、すぐに見なければいけないものだったか、それを見ていないということのはずだ。まあ、自分が送った写真など、見る必要もないだろう」
「たっ、確かに……。あれは芝居だったんだ」
なぜだか、妙に落ち着いている自分がいた。
「次におかしいと思ったのは、桜木の言動だ。俺が神崎にハッキングを教わると決めたとき、あいつは突如怒り出した(「これは恋じゃないんです」参照)。いくらなんでも、突然すぎて違和感があった。だから、何となくその話を避けたいんじゃないかと思ったんだ。
だって、変なことを言ってしまえばその時点で計画は失敗だからな」
「確かに」
納得する。
「じゃあ、神崎は、桜木と話したいんだな?」
「う、うん」
「俺もいた方がいいか。それとも、女子のことだから、男子に首突っ込んでほしくないか?」
「……そうだね……でも、同行お願いしていい? 一人じゃちょっと怖い」
だって、ユウが何をしてくるのか、分からないから。
「分かった。……いつにする?」
柳くんが、言葉を選んでいるのが伝わってくる。
柳くんは、女子の気持ちが、少しだけ分かるのだと思う。
本気でがつがつ女子同士のトラブルに突っ込むのを、当事者は嫌がるから。
私だって、それは嫌だけど。
でも、柳くんなら、そうしてくれてもいいと思った。
「……私、きっと、タイミングが遅くなったら、一生言えないと思う」
私も言葉を選んで言った。
「今は、ユウと真面目に話したい、ユウの気持ちを理解したいと思うけど、それって、一時的な熱意でしかないと思うんだよね。
このまま言わないで、明日を迎えたら、もう私は二度と、ユウと目を合わせて話ができないと思うんだ。
もう明日になったら、すごく怖くなって、ユウと冷静に話なんかできないよ。それだけならいいかもしれない。だけど、私なら、もっと……大きなことをしてしまうかもしれない」
柳くんが眉を上げる。
言わずとも、分かったようだった。
能力を使って、人を苦しめる計画を立てている私たち。
そんなギリギリの状態なら、何かのきっかけで殺人鬼と化してしまうかもしれない。
私はそんなの嫌だった。
せっかく手に入れたこの地位を、手放して、全人類を敵に回すなんて——、
絶対に、嫌だ。
「だから、私はこの今の気持ちのまま、ユウと話がしたい。ユウと、まともに話せなくなるのも、自分の居場所がなくなるのも嫌だから。
……そんな理由じゃ、ダメかな?」
柳くんが、息をのむ気配があった。
ふーっと長い息を吐いて、彼を見る。
彼はそのまま固まっていた。
切れ長の瞳が見開かれ、今にも涙が零れそうだ。
「……柳くん? どうしたの」
不審に思って声をかけると。
柳くんは、私を見て、もっと大きく目を見開く。
そして——彼の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
一粒、だけ。それだけでも、彼にとっては珍しいことのはずだ。
「柳くん?」
——あなたはどうして泣いているの。
訳が分からなかった。
「どう……したの?」
恐る恐る、尋ねると。
彼ははっとしたように顔を上げ、「ごめん」と謝ってきた。
「どうしたの」
「……いや、神崎が、俺の友達に似てたから」
「ともだち?」
「悪いな。話、止めたか? 続きがあるなら言って」
「もう、あれでいいよ。察してくれたか分からないけど、要は、これからユウに会いたいなって」
はっきりと結論を口にすると、柳くんが頷いた。
その顔には、涙のあとも、なにもない。
泣いただなんて、私と彼以外、分からないだろう。
彼が、「いいか?」と尋ねてくる。
手にはスマホ。どうやら、電話をかけて、来てもらうらしい。
ありがたい気遣いにほっとする。
——私だと、ユウに電話をかけるのすら、怖いから。
彼の指が、通話ボタンに近づく。
そして、彼のスマホが、プルルルル、と高鳴った。
今回は結構長め、
ボリューミーな一話になったかと思います。
次話もお楽しみにね!




