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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

セットク

作者: SHIDOU

ええええええええええっ!?

なんで僕の罪、そんなに重くなるんですかっ。

理不尽でしょう、納得いきませんよっ。

確かに僕は日本国内における「誘拐罪」を犯しましたよっ、弁護士さん。

C氏とP氏とタッグを組んで、何人もの少年をかどわかしましたよっ。でも、被害者の少年たちは無事に家に送り返したしっ、身代金だって一円も請求してません。それなのに無期懲役だなんてあんまりじゃないですかっ。


……え。

共犯者が居たのかって。

ああ、そうなんですか。弁護士さん、C氏とP氏のこと知らなかったですか。

じゃあ、共犯の彼らのことも話しておきますよ。

そうすれば無期懲役が三分割されて、僕の刑はもっと軽くなりますよね?


えっとCはですね、少年愛好家の集いで知り合った男です。僕より10歳年上ですね。かどわかし実行に使った車は、彼の持ち物です。普通に通勤に使っていた車らしいので、美少女絵ペイントを施させることや、ラッピングで後部座席の窓を目隠しさせるのには骨を折りました。もともとCは誘拐の提案にも腰が引け気味だったんですよね。それを僕は熱心な説得で、Cの心を動かしたんです。オタクの痛車に見せかけ、ターゲットの警戒を解く。窓を隠しても不自然ではない風体。結局彼もノリノリだったってことで、ね。主犯はCでいいんじゃないでしょうか。


Pとは直接の知り合いじゃないんです。Cの知人です。僕とCの年齢を合算したくらいのアラフィフ男性ですね。市の外れに使ってない工場があって、その持ち主がPだと聞いて、これは監禁現場にうってつけだということで、僕とCで頼みに行ったんです。場所だけ借りるとあとくされがありそうなので、共犯に引き込むことは最初から決めてました。Pは最初、堅物のような異性愛者だったんですけどね、そこを僕とCの熱意溢れる説得が、何時間も何日も何か月もかけてPの心を溶かしたんです。彼のシチュ心はたいへん変態的でしたよ。『ドア』をどうするかでもめた時「付属しているのに使えないというのがいいんじゃないか」と熱く主張していましたからね。ああこれ、主犯はPでいいんじゃないかな。


さてと。

話を最初に戻しましょう。

誘拐犯、けれど主犯ではない僕の、刑がそんなに重くなるのかって話でした。

僕はこれでも実行に移す前に、ちゃんと下調べをしているんです。きっちり派なんですよ、これでも。

誘拐にかかわる法律は、刑法224条~226条までが該当し、動機はおおまかに四つに大分されます。それぞれ懲役期間が異なり、動機における身勝手さが強ければ強いほど刑が重くなるようになってます。


まずひとつめが「外国への連れ去り」目的の誘拐ですね。

でも今回、事件はすべて市内で完結しているので、これに該当しませんね。


最も凶悪ととらえられ、刑が重くなるのが「身代金を目的にした略取・誘拐 」です。人質の状態によっては、無期懲役もありうる鬼畜な犯罪ですが、しかし僕は身代金を目的にしたことは一度もありません。繰り返すようですが、僕たちはターゲットの少年の家に脅迫電話をかけたことはないですし、金銭を用意するよう強いたこともありません。


罪状のオプションとして「未成年者に対する略取・誘拐」がありますね。被害者が幼ければ幼いほど、犯人に対する心象が悪くなり、裁判も厳しめな判決を下すようです。

が、言うまでもなく僕はオプションとは無縁です。

弁護士さんなら法に詳しいですよね。だから無論ご存じだ。少し前、成人年齢が18に引き下げられたのを。そして僕のリサーチは完璧です。ターゲットの少年は皆、18歳の誕生日を迎えており、世に成人と認められた為、僕に罪状オプションを付けることは不可能な訳です。


さて、最後に刑法225条に記された「営利目的等略取及び誘拐罪」が残りました。これは簡単に言えば、かどわかしたターゲット本人に、結婚だったり強行エッチだったりと加害的な目的があることですね。

ずばり僕はこれにも該当しません。

…………。

……なんですか。

その疑い深い目は。

身代金目的でもなく、淫行狙いでもなく、じゃあなぜ誘拐などするのか、不思議に思っている顔ですね。

まったくあなたは現実のレールを生真面目になぞっているだけの人だ。

シチュエーション萌えなど一度も遭遇したことないのが、手に取るように分かる。

想像力を駆使し、ドミノ倒しの準備を行うように、息をつめて入念に手筈を整え、そして展開される萌えシチュ、その間近の目撃者となる喜びを知らないのだ。

仕方がない。話してあげましょう。

あとで警察の人に確認してみるといいですよ。被害者の少年の体や、服をはじめとする所持品からも、僕の指紋や体液に類するものは検出されてないはずです。

僕は本当に、ターゲットの少年には触れていないのです。


僕とC氏とP氏で車に乗り込み、ターゲットの少年の後をつけます。

少年の帰宅ルート、人気のない道は事前調査済みなので、僕はすぐ車の速度を緩め、窓から声をかけます。

内容は定番の道案内だったり、財布が落ちてたけど君のじゃない? との呼びかけだったり、ごく普通のです。

少年が足をとめ、怪訝にこちらを見返し、対応すべきかどうか迷っている間に、P氏が薬品をしみ込ませたタオルを手に背後に回り込みます。

いかに速攻で眠らせるとか、どんな具合に全身から力が抜けるのかとか、研究してあれこれ薬剤を取り寄せてましたよPは。ぐったりした少年を腕に抱きとめるのが至高の気絶フェチですから。

車内に運び込んだ少年の拘束役がC氏です。結束バンドで手首、足首をそれぞれ縛るのですが、Cはシリコン製結束バンドなんてものを持ち出してね。プラスチックの結束バンドよりも柔軟性に富んでいるので、長時間結んだままにしていてもうっ血しにくいんだそうです。

いやあ……やばい人ですよね、どうみても。C氏は縛りプレイに目覚めてますよ。ええ。

僕はずっと運転手でしたよ。ええ。少年には一度も触れていないし、この先も触れることはないのです。


工場の敷地内に乗り入れ、奥まったところにある倉庫の中に車を停めます。倉庫は道路に面した正門からは一キロほど離れており、反対側は海があるだけです。倉庫の床一面に敷き詰めたクッションフロアに降ろした少年は、手足の拘束以外は何もしてないけど、たとえ叫ばれても平気なロケーションです。

少年が目覚めます。不自由な身体に気づき、周囲の見たこともない風景に慄き、そしてキッとまなじり吊り上げ、目出し帽の僕たちに詰問口調で質問したり、解放を命令するのが常ですね。

まあ慣れている我々は「あーあーいつものwww」と心の中で草を生やしながら黙っているわけですが。

リアクションがないので少年も警戒し、無駄に体力を消耗せず、様子を伺う姿勢に移行します。

さて、さっき倉庫内にクッションフロアを敷き詰めているといいましたが、これ、なかなかお高くて質のいいやつなんですよ。そのまま座っても尻が痛くならないし、ここに直に眠っても、翌朝は高級フランスベッドで寝たくらいに体は快活にほぐれています。

……何が言いたいのかというと、まあ、かどわかした少年に対しては配慮をしたということですよ。シリコン結束バンドしかり、床マットしかり。

ただひとつだけ。温度管理はしてません。古い倉庫は隙間だらけで、隙間風吹き込み放題。潮風の影響で、この辺は夏でも30度いかないんですよね。冬になると、日が落ちた直後から温度計の表示はストーンと下がっていく。

まあそんな気候なので、我々は内側に着こんだり、ホッカイロを貼っておいたりあらかじめ準備万端にしておくのですが、当の少年はそうもいかない訳で……。


少年の目がきょろきょろ泳いで、倉庫内を見渡しはじめる。

腰が揺れ、二本の足がそわそわしはじめる。

僕たちはにやりと心の中で笑みを取り交わすのです。誘拐前にくじ引きで取り決めしてあるので、この時はくじで当たったC氏が声かけ役でした。

「なんだ、小便か」

言葉の中に下卑た嘲笑を混ぜこんでます。さすがにこれに対し、

「はいその通りです。誘拐されて早半日、膀胱は体液でたっぷたっぷで、排出命令が体にしきりに繰り出されるので苦しくて堪らずもう限界です、トイレに行かせてください」

と素直に認める少年などいるはずもなく、ぷいと機嫌を害してそっぽを向くのが通例ですね。

同時に僕たちのお楽しみタイムの開幕でもあります。

C氏はこの直後の、自分でチャンスを突っぱねた直後おそいかかる尿意に絶望の表情をする少年が好きだといいますが、とんでもない変態ですよねえ。

P氏のお好みは、増えていく耐えバリエーションだそうです。つま先で床を叩いたり、下半身をくねくねさせ膀胱形状を変化させてやり過ごそうとする無駄な努力だそうですけど、とんだアブナイ奴ですよね、こいつも。

その点、僕は切羽詰まって呼吸もままならなくなる「尿意限界~漫然と息をしたら水漏れ必至~我慢少年クライマックス」が絶好の見どころだと思っているんですがね。

…………。

……またそういう顔をする。

あのですね、言っておきますが、僕の真の目的じゃないんですよこれは。こんなアダルトDVDにありそうなシチュなら、わざわざ自分の手で事を起こす必要はないじゃないですか。

過程に過ぎないのですよ、こんなものは。過程に。


たっぷり時間をかけ、さんざん僕らを焦らした挙句、少年はやっと再度のトイレ要求をします。

風雅を解さないC氏なんかは、ここで「ああ、お楽しみが終わっちゃったなあ」なんて顔をしますがね。

とんでもない。

魂に刻み込むのはここからだというのに。

誘拐という犯罪に手を染めねば見物できない、至高の萌えシチュが展開されるというのに。

C氏が乱暴に少年の身を起こします。足の拘束は少し緩みがあるので、少年は小さい歩幅でなら歩けます。P氏が倉庫の出入口まで先導します。

海に面した広い駐車場は、白線が剥げかけており、アスファルトの隙間からあちこち雑草が伸び放題の、荒れ果てた風景です。そこにポツンとたたずむ移動式トイレ。プラスチックの基体が風の吹くたびに軋み、開いたドアがバタバタ揺れ、黄ばみかけた便器がタンクの底の黒々した闇をのぞかせています。

尿意が限界なんでしょう。少年は臆する様子もなく、不衛生なトイレに嫌悪を見せることもなく、階段を軋ませながらたったひとつの個室に入り、それから不自由に気づきます。

「……ドア」

そうです。結束バンドで縛った手首は体の前側。ファスナーを自分で降ろすことはできても、ドアを閉めることは不可能です。狭い個室で決壊寸前の膀胱と戦いながら、体の向きを変え、やっとのことでドアに手を触れます。

真打の僕、ここで登場。

ガシッとドアを押さえて、閉めさせないようにします。

「逃げたり、助けを呼ばれるとまずいからな。開けたままするんだ」


……ああ。

このシチュエーション。

解放まであと一歩のところで下される残酷な妨害宣言。

おもらし専門系のストーリーや動画はあれども、ここまで突き詰めたものが他にありますか!?

P氏の言っていた「ドアはあるのに、使えないというのがいいんだ」に賛同させてもらいましょう。

そして作ったストーリーでは味わえない、このリアルで多岐にわたる少年の反応!


これまで誘拐した少年の半分くらいは、ここで観念して、衆人環視のもと排尿しちゃいました。

ほんとうに尿意ギリギリだったんでしょうね。安っぽい便器にしずくが落ちる音は、まるで嵐の排水溝のような激しさですよ。屈辱にか体全体が震え、耳まで真っ赤に染まっているのが見えます。

それでも体内の不要物の排出で体が軽くなるとともに、今までの耐久の苦しみも、現在進行中の恥辱も、誘拐と誘拐犯という理不尽な存在への怒りも、流されていっちゃうんですかね。トイレを終えた少年はどこかぼんやりした表情で、大人しく倉庫に戻っていきます。まもなく疲れはてて眠ったところで、僕らは車に少年を運び込み、元の場所に送り返す訳です。あ、ここでも僕は運転手ですから、指一本少年には触れてませんよ。


育ちがよさそうな少年の涙混じりの懇願もまたいいものですよ。「逃げたりしませんから」「どうか信用して」「ドアを閉めさせてください」って。胸が熱くなりますよ。安っぽい移動トイレの、プラスチック製の内部はすかすかのドア、たった一枚の開閉が排泄の尊厳に関わるのだと必死になる姿は、リアルで味わってこそです。C氏もP氏も目出し帽で顔が見えないけれど、心から噛みしめる表情をしているに決まってますよ。


そうそう、この期に及んで強がる少年もいて、思い出すだけで目頭が熱くなりますよ。

「お、おっさんたち俺の小便の臭さを知らないんだな、ドア空けたままでやらせようだなんて、死ぬぞ? 硫化水素以上の凶悪さで、おっさんたちの命をとるかもしれないぞ」

ってね。

いやあ、君ね。瀬戸際状態でしょ。うっかり呼吸するだけでジュッとあふれだすほど下半身は切羽詰まってるでしょう。

そこで何故とる選択が、下手に出て頼みこむ方ではなく、叶う可能性が低いそっちを採るかっていう。

目出し帽の下、僕だけでなくCもPもニヤニヤしまくりです。見えないけど。そして誰も応えないけど。

挑発に乗る者もなく、居心地が悪い空気の中、唇を噛みしめた少年が、三人の同性に見つめられながら熱い体液をジョロロロする……かどわかしの真骨頂ここにありですよ。


まだまだエピソードはありますが、さすがに基本に立ち戻りましょう。

……基本って何だっけ? ですか。

僕の罪の重さについてですよ。納得いかない無期懲役刑についてですよ。

ずっと話してきた通り、僕は少年に一度も触れたことはありません。ですので刑法224~226条のどれにも当てはまりません。

該当するのは刑法220条の監禁罪ですが、これだって懲役は三か月以上七年以下ですよ、どうあがいたって無期懲役になんてならないのに。

おかしいですよねっ、理不尽ですよねっ、絶対に受け容れられるはずがないっ。

少年を抱きかかえたり、運んだりして触れたCとPには、刑法225条を適用すべきですよっ。車の持ち主だし、気を失わせる薬剤を用意したりした実行犯ですよっ。無期懲役になるのは向こうのほうですよっ。

僕はもっと軽い刑で当たり前ですよねっ、ちゃんとそうなるように弁護してくれますよねっ、僕の言っていることは正しいですよねっ、よろしくお願いしますよっ、弁護士さんっ!



面会室を出ると、弁護士の男は耳の中から無数の小虫が飛び立っていくような感覚に襲われた。

残留する不快な羽音が、鼓膜に麻痺を起こす。軽い頭痛を覚えているのを自覚した。

無理もない、と思う。

小箱に詰められ上下左右に振られるように、一方的な話を長時間に渡って聞かされたのだ。麻痺も頭痛も起きて当然、むしろそれだけで済んだのが幸運と言うべきか。

額をおさえる。痛みはあるが思考力は保っている……と思う。

被疑者の主張は……おおむね、正しいの……だろう。被害者の少年に触れてないと、あれだけ自信をもって言い張るのならば、その通りなのだろうし、指紋の検査や証言により、それが裏付けられれば、さすがに無期懲役になることはないだろう。

彼の希望通り、刑の軽減は可能なのだが……何かが……それでいいのだろうか。モヤモヤが胸によどみ、こめかみの辺りが重い。


「……この被疑者、本当に無期懲役になるんですかねえ」

二人組の警察官がならんで廊下を歩いていく。面会が終わったので、被疑者を房に戻すため、迎えに来たのだろう。

「誘拐犯だけど、実行犯はほか二人がメインで行っていて、この被疑者は被害者に触れてもないのに、いちばん重い求刑だなんて……」

二人組のうち、若いほうの警察官は同情的な口調でぼやいている。

年かさの――おそらく何らかの役付きか、年上の警察官は静かに諭した。

「セットクされてるな、お前」

「説得? 自分は別に被疑者とそんな長く話したことはないですけど」

「褻涜【セットク】、猥褻のセツと、冒涜のトクを合わせた熟語だ」

イメージが浮かばないのか、若い警察官は首をかしげている。

「詳しいことはあとで自分で調べろ。けがれるとか、汚染するといった意味がある」

「俺がセットクされている……つまり俺が奴に汚染されたって……事ですか?」

未だ理解がいかないとばかりに、首を回す警察官に、年上のほうは言い添える。

「奴ははじめ単独犯だったが、足や場所のために共犯者となる二人を【説得】し【褻涜】した。相手に影響を及ぼし、賛同者にする、悪い意味での才能があるんだろうな。そうして被害が出た。奴の欲望は歪んでいるし、言っていることは屁理屈だ――褻涜されていない全うな人間ならそう判断する」

「……」

「だから、奴はしまっておくしかない。世に影響を与えずに済むよう、税金を費やしてでも隔離しておくしかないんだ」


立ち聞きしている罪悪感は吹き飛んだ。年かさの警察官の言葉は、天から注がれる光のように思えた。

光に洗い流され、心が、頭がすっきりする。決意が定まる。

被害者の少年たちの傷つけられた尊厳の、一刻も早い回復を願って、自分は弁護士として立ち回ろう。反省の様子がない、改心の見込みもみえないと強く押せば、裁判官にかなり悪い心象を残すだろう。無期懲役はかなり現実的なものになる。

足取りが軽い。今なら小鳥のように羽ばたけそうだ。

彼は軽い足取りで建物を後にした。



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