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ブラックダイヤモンドの呪い 3

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 五分ほどでウィリアムは正気に戻ったけれど、再びエイジェリンを「ママ」と呼んで抱きついた事実に、彼は灰になっていた。

 どういうわけか、ウィリアム――いや、彼が右の親指にはめている指輪に憑りついている霊が「ママ」と間違えるのはエイジェリンだけのようだ。


 ウィリアム曰く、霊の母親はエイジェリンと同じ鉄錆に似たくすんだ赤茶色の髪色をしていたらしい。背格好も同じくらいで、抱きついた時の胸の感触も同じらしい。最後のは心底いらない情報だ。


「指輪に憑りついている彼はいったい、どこの誰なんですか?」


 エイジェリンが訊ねると、ウィリアムは気を取り直したように一つ咳ばらいをした。


「百年以上前の王子らしいけれど、詳しくは教えてくれないからわからない。わかっていることと言えば、十歳の時に熱病にかかって早世していることくらいかな。このブラックダイヤモンドは魔除けとして病に苦しむ彼に贈られたもののようだ」

「……十歳で」


 エイジェリンは少し指輪の霊に対する考えを改めた。十歳の男の子ならばまだ母親に甘えたい時期だろう。ウィリアムが二十四歳の、それも長身の筋肉質な青年なので、成人したマザコン男を想像していたが、十歳なら仕方がないと思える。

 エイジェリンが同情を隠し切れないでいると、ウィリアムが大げさに首を横に振った。


「絆されないでくれ。君が許すと、こいつは遠慮なく君に甘えに行くぞ。俺は君をママと呼びたくない。そう呼んで君に抱きつくたびに、俺は大切な何かを失うような気持ちになる」


 エイジェリンだって自分より年上の男にママと呼ばれたくはないし、胸に顔を押し付けられるのもまっぴらだ。神妙な顔で頷くと、ウィリアムは「どうしたものかな」と頭をかいた。


「これだけジャガイモを食べてもダメなんだ。ほかに方法を探さなくてはならないかもしれない」

「他の方法、ですか?」

「ああ。大抵、霊が成仏できないのは心残りがあるからだ。多くは俺にあれをしろこれをしろとその心残りを伝えてくるが、どうもこいつは違うような気がする。ジャガイモだってきっと食べたいだけで、深い意味はないのだろう」

「なるほど」

「だが、こいつはあまり自分のことを語ろうとはしないからな。……これは、地道にこいつの手掛かりを探すしかないようだ。この国の王子だったのならば、城になにか手掛かりがあるだろう。まずは陛下に頼んで家系図を見せてもらうかだな」

「お城、ですか」

「ああ。もちろん君はついて来なくても構わない。これはブラッド家の宿命みたいなものだからね。君は変なところに雇われてしまったと思うかもしれないが、これも運命だと思って諦めてくれないか。うちはこう言った事情で、メイドが早くやめてしまうことが多くてね。迷惑をかけたらその分賃金をはずむから、どうかやめないでほしい」


 こんな妙な体質を大勢に知られたくはないし、新しくメイドを探すのも一苦労なんだと言って、ウィリアムが肩をすくめる。

 ブラッド伯爵家の賃金は他と比べても高かったし、ウィリアムが悪魔だの魔王だの言われるゆえんも理解した。妙な体質だとは思うけれど、彼自身には忌避感を抱かないので、エイジェリンから出て行くことはない。というか、ここをクビになれば新しい勤め先を探さなくてはならないので、できる限り長くここにおいてほしかった。


 エイジェリンが頷くと、ウィリアムはホッとしたように笑って、明日にでも城へ向かうという。

 エイジェリンがウィリアムの飲んだティーセットを持って部屋を出ようとすると、彼はふと思い出したように言った。


「そうだ、ジャガイモが成仏の鍵じゃないなら、無理して食べることもないだろう。ディナーから、ジャガイモ料理は一品だけにしてくれと言づけて来てくれないか?」


 そう言った後ですぐに指輪に向かって「うるさい黙れ!」と叫んだので、指輪の霊が文句を言ったようだ。

 エイジェリンは「かしこまりました」と笑って頷いた。


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