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過去と悪だくみと招待 2

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 ハーパー伯爵家を追い出された時のことを話しているうちに、五年前の悲しみや悔しさがこみあげてきて、エイジェリンはきゅっと唇をかんだ。唇を噛んでいないと、涙が盛り上がってきそうだったからだ。


 エイジェリンの話を聞いたウィリアムは眉間に皺を寄せ、フリードリヒは顎を撫でた。

 レシティアが、エイジェリンの肩に腕を回して、ゆっくりと撫でる。


「なるほど、君が病弱だという話は、爵位を手に入れるための嘘か。……君が社交デビューしてから、滅多にパーティーに姿を見せなかったことを逆手に取られたんだろう」


 フリードリヒに言われて、確かにエイジェリンは社交界に顔を出していなかったなと思い出した。義母や義姉の散財のせいで、エイジェリンは父とともに奔走していて、それどころではなかったのだ。


「私も事実確認をすべきだったな。安易に信じて承認して、申し訳ないことをした。すまなかったな」

「と、とんでもないです! わたくしどものことで陛下が謝罪なさるところはどこにもございません!」


 国王陛下に謝罪されてエイジェリンが青くなっていると、ウィリアムが嘆息する。


「そのあとで君が社交界に出ていれば違っただろうが、君はそのあと、家庭教師をはじめたりしたからね。……というか、君の家庭教師先のモーテン子爵家も、一枚かんでいると見ていいかもしれないな。君が病弱で寝込んでいるという噂が社交界に広まっているのならば、君がエイジェリンの名前で仕事をしていたモーテン子爵夫妻が不思議に思わないはずがない。そして、もしかしたら、モーテン子爵家を紹介した君の伯父夫妻もそうかもしれない」

「え?」

「何かあったのか?」


 フリードリヒが興味津々な顔をしたので、ウィリアムが、自分が知っていることをかいつまんで説明すると、フリードリヒも頷いた。


「ああ、それは、ロバートが裏から手を回していると考えるのが妥当だろうな」

「で、でも伯父様たちは……」


 行き場をなくして祖父母を頼ったが、いつまでも甘えるわけにはいかないと相談すると、伯父夫妻は快く勤め先を探してくれた。とても親切な人たちなのだ。エイジェリンがルビー色の瞳を揺らしていると、ウィリアムが申し訳なさそうな顔で肩をすくめた。


「エイミー、それがおかしいんだ。社交界に顔を出さなくなった君の祖父母ならまだしも、あちこちのパーティーに出席している君の伯父夫婦が、君の噂を知らないはずがない。ありもしない病弱説を聞けば、違和感を覚えてもおかしくない。陛下の承認がある以上、陛下自身に確認に行くような不敬なことはできないけれど、周囲から確認を入れる方法がないわけではないんだ。それをする前に、君にあっさり勤め先を紹介するあたり、君を社交界から遠ざけておきたいという思惑が働いているに違いないと、俺は思うよ」

「そんな……」


 血のつながりのないロバートやグレイスがエイジェリンのことを裏切るのは、心のどこかで仕方のないことかもしれないと思っていたけれど、まさか血縁者である伯父が自分を裏切ったとは、エイジェリンは思いたくなかった。


「君の伯父夫婦が進んでロバートに協力したのか、仕方なく協力したのかは、調べて見ないことにはわからない。だが、どちらにしても、君を裏切ったという証拠は出てくると思う。……その、覚悟はしておいた方がいい」


 すでにショックで頭が真っ白なエイジェリンの手を、テーブル越しに手を伸ばしたウィリアムが握りしめる。

 絹の手袋越しにウィリアムの体温を安らぎを感じて、手を握り返したエイジェリンが大きく息を吸い込んで、少しでも自分を落ち着かせようとした時のことだった。

 ふっ、とウィリアムの紫色の瞳が、少年のような輝きを帯びて――


「ママー!」


 弾かれたように立ち上がったウィリアムが、エイジェリンに駆け寄って抱きついたのを見た途端、フリードリヒの爆笑がサロンの中に響き渡った。


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