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過去と悪だくみと招待 1

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 ロバート・ダストン子爵令息とエイジェリンが婚約をしたのは、エイジェリンがまだ七歳のときだった。


 ロバートは父の旧友の息子だった。亡き妻との間にエイジェリンしか持たなかった父は、早々に伯爵家の後継を探して育てることにしたようで、その中で目をつけたのが、ダストン子爵家の次男であるロバートだったのだ。


 政略結婚など貴族社会では珍しくないし、自身も政略結婚でありながら亡き妻と確かな愛情でつながっていた父は、エイジェリンもきっと幸せになれると疑いもしなかったのだろう。


 エイジェリンの目にも、ロバートは優しい好青年だったし、父のもとで学ぶ姿勢は極めて真面目だった。

 だから、あの日――婚約破棄と、伯爵家の相続権がロバートに移ると聞いたときは、本当に茫然とした。


 それは、父の葬儀が終わって少しして、ショックで寝込んでいたエイジェリンが、いい加減にしっかりしなければと自分を叱咤し、伯爵家の相続に動き出そうとした矢先のことだった。

 突然ダイニングに集まるようにとロバートに言われて、少し早いが、ロバートとの結婚の話になるのだろうかと思いながらエイジェリンが向かうと、そこには義母と義姉グレイスの姿、そしていつになく冷たい目をしたロバートが待っていた。


 そして、エイジェリンが席に着くや否や、ロバートは国王陛下の印が押された一枚の紙を差し出して、こう言ったのだ。


「陛下の承認をいただいた。この家は今日から俺のものだ。そして君との婚約は今日限りで解消する。俺は君のかわりにグレイスと結婚してこの家を継ぐから、君は早々に荷物をまとめて出て行くように」


 あまりのことに愕然として、エイジェリンが目を見開いたまま一言も発せられない間に、畳みかけるようにロバートは続けた。


「ハーパー伯爵家は我がダストン家に多額の借金をしている。その返済をなくすかわりに、俺が爵位をいただくことになった。陛下の印があるから、エイジェリンが何と言おうと、これは決定事項だ」


 ハーパー伯爵家をロバートが継ぐことについては、いずれエイジェリンと結婚すればそうなるだろうから不思議ではないけれど、どうしてそれでエイジェリンが追い出されるのだろうか。


 ダストン家には確かに借金をした。義母や義姉が本来国に支払うべき税金分にまで手を付けてどうしようもなくなったから、婚約者の実家であることに甘えて金を借りたのは確かだ。

 けれど、それとエイジェリンが家を追い出されることがつながらない。もっと言えば、どうしてエイジェリンと婚約を破棄してグレイスと結婚するのだろう。 

 エイジェリンが混乱していると、グレイスが真っ赤な唇を艶然と微笑ませた。


「エイジェリン、聞こえたでしょう? ロバートはあんたではなくて、わたしがいいと言ったのよ。当然よね? わたしのほうが、あんたよりも何倍も美しいもの」


 爵位の継承に美醜は関係ない。その言葉が喉元まで出かかったけれど、現在、爵位の継承権はロバートに移ってしまっている。ロバートの選択にエイジェリンは否を挟める立場にない。


(なんで……)


 何故。どうして。その単語ばかりが頭の中をぐるぐると回る。

 エイジェリンは、ロバートとはそれなりに仲良くやれていると思っていた。

 恋愛感情はないけれど、確かな信頼でつながった夫婦になれればいいなと、そう思っていたのに。


 グレイスは美人だが、エイジェリンだって、醜くて見られないような容姿ではないはずだし、何より彼女のように散財しない。堅実な妻になる自身もある。なのに、何がいけなかったのだろう。

 ロバートは、国王の承認の印がつかれた紙をクルクルと丸めて立ち上がった。


「話はそれだけだ。もうここは君の家ではないのだから、さっさと出て行ってくれ。馬車くらいは手配してやる」


 あまりにショックで、エイジェリンはしばらく、立ち上がることすらできなかった。


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